月刊京都連載 和菓子歳時記
2016
32

ひちぎり

京都市内の和菓子屋では『下萌え』や『早わらび』などと名付けられた季節の移ろいを感じる菓銘の上生菓子が店頭
に並んでいます。
そして、各所で雛人形が飾られている様子を目にするようになってきました。
3月3日は、雛祭りとして親しまれている『上巳の節句』。別名『桃の節句』とも呼ばれ、
暖かな春の訪れを感じる行事です。
京都では、旧暦にならい、一ヶ月遅れて4月3日に行なわれるご家庭が多くあります。

その頃は桃の花が咲く頃。
そこから『桃の節句』と呼ばれるようになりました。
この時期に見かける『ひちぎり』は京都で作られる雛祭りの代表的な上生菓子です。
もとは平安時代、宮中の儀式の祝儀に用いられた『戴き餅』に由来します。白いお餅を引きちぎって、
真ん中を窪ませて、その上に餡を載せただけのものでした。

その『戴き餅』が、時代を経て江戸時代に現在のような意匠となりました。
華やいだ桃の節句にふさわしいお菓子です。
菓銘ひちぎり
店名聚洸
住所京都市上京区大宮寺之内上ル
電話(075)431-2800
2016
39

さくら餅

東寺や一条戻り橋では早咲きの桜である河津桜(カワヅザクラ)の開花が始まり、
通り過ぎる人々を楽しませています。
河津桜は大島桜(オオシマザクラ)と寒緋桜(カンヒザクラ)との自然交雑種であるといわれています。
そのひとつ大島桜の葉は塩漬けすることで特徴的な芳香を放ちます。
春の代表的な和菓子のひとつである『さくら餅』。

桜葉のいい香りがとても印象的なお菓子ですが、多くのお店では、その大島桜の葉を桜餅に使用しているそうです。
京都でよく見かける桜餅は餡を薄い桜色に染めた道明寺餅で包み、桜葉で巻いたものです。
私にとっては、春になると家族で食卓を囲み食べた、幼い頃から慣れ親しんできたお菓子です。
いつしか『春の香り』は桜餅を口に入れた時の香りだと思うようになっていました。
みなさまも、存分に春の香りをご堪能ください。
菓銘さくら餅
店名いけだ
住所京都市北区紫竹高縄町70-13
電話(075)495-9170
2016
316

ふくらみ

2016年・桜シーズンが目前となり、色々なところで桜の話題を耳にする時期となってきました。
桜の陰でひっそりと咲く桃の花。
桃を題材にした和菓子の意匠は、桜の意匠に比べると数少なく、あまり見かけることがありません。
とある和菓子屋のご主人によれば、やはり桃の意匠よりも桜の意匠の方が、圧倒的に人気がある為、
このようなことにならざるを得ないそうです。

今回、ご紹介させていただくお菓子は、その『桃』の意匠。しかも、桃の花の蕾をイメージした珍しい意匠の
『こなし』製のお菓子です。
今まで数々のお菓子を見てきましたが、このような意匠は初めてみました。
桃の花の色をピンクと表現されることがありますが、英語の【Pink】はナデシコを指し、正確には、桃の花の色を
『桃染(ももぞめ)』と表現します。
日本書紀にも『桃染布五十八端』と記されているように古来より使われてきた色です。
ほころびかけた蕾。『若緑』と『桃染』のグラデーションで時が流れているように感じる、趣きのあるお菓子です。
菓銘ふくらみ
店名笹屋春信
住所京都市西京区桂乾町66-1
電話(075)391-4607
2016
323

桜だより

平野神社・楼門の傍らに植えられている枝垂れ桜『魁(さきがけ)』の開花が始まりました。
いよいよ京都の本格的な桜シーズンの到来を告げる桜の開花です。

こちらの桜は平野神社発祥の一重の枝垂れ桜。
楼門よりも大きな魁桜は、まるで楼門を包み込むかのように優雅に咲き、訪れる参拝者を魅了します。
京都には数多くの美しい桜がありますが、魁桜も毎年必ず見たい桜のひとつです。
京都市内では、4月下旬に咲く遅咲きの里桜まで約1ヶ月間、桜を楽しむことができます。

近頃、和菓子屋の店頭には多くの華やかな桜の意匠のお菓子を見かけるようになってきました。
今回は桜の焼印とピンク色のぼかしが可愛らしい薯蕷(じょうよ)製のお菓子です。
次から次へと様々な品種の桜が咲く、これからの時期にぴったりの菓銘のお菓子です。
菓銘桜だより
店名日栄軒
住所京都市北区小山初音町61
電話(075)491-2204
2016
330

さくらきんとん

京都では桜の開花宣言が出て、いよいよ本格的な桜シーズンを迎えようとしています。
(一部の桜は見頃もしくは散り始めている桜もあります。)

この時期になると、よく観光客に尋ねられるのが、「何処の桜が一番綺麗ですか?」という質問です。
何処の桜も風情があり、これほど答えに悩む質問はありません。
毎年、京都の数多くの桜を見て、知れば知るほど、簡単には答えることができなくなってきています。
私の桜の愛で方は、その年毎にお気に入りの桜を決めて、蕾みがほころぶ頃から散り桜となるまでを見届けます。
不思議と同じ桜なのに、日々違う表情を見せてくれます。

今、私は近衛邸跡の糸桜を目の前にこの記事を書いています。
もちろん、和菓子も一緒に!
今回のお菓子は、咲き始め間もない花をピンク色。
ひらり…ひらり…と散りゆく、ひとひらの花びらを白色で表現しています。
一本桜の時の流れを感じることができるお菓子です。
菓銘さくらきんとん
店名千本玉壽軒
住所京都市上京区千本通今出川上ル
電話(075)461-0796
2016
46

都をどり

京都では早咲きの河津桜は既に葉桜となっています。
そして、先週見頃となっていた一重の枝垂れ桜は散り桜となり、ソメイヨシノの見頃も後わずかとなってきました。
花風にのって、花びらが舞う光景が切なく感じる日々です。
とは言いましても、これからは八重紅枝垂れ桜が見頃へと向かいます。

卯月となり京都祇園では、春の風物詩であります『都をどり』が、上七軒歌舞練場の北野をどりに続いて、
祇園甲部歌舞練場で始まりました。
連日、大勢の観客で賑わっています。

今春で144回目となる今回の演題は『名所巡四季寿』。
全国各地の名所を取りあげて春夏秋冬の四季の移ろいを感じることができる演目となっています。
とりわけフィナーレでは、『姫路城桜霞(ひめじじょうさくらのかすみ)』という演目で白鷺城を背景に総をどりが
行われ、華やかに締めくくられます。

今回は、祇園甲部歌舞練場からほど近くにありますお店で販売されている、都をどりにちなんだお菓子です。
祇園甲部の紋章である『つなぎ団子』の焼印を入れ、都の春をイメージする桜と柳の色をあ しらった薯蕷製の
お菓子です。
お菓子から京都ならではの春を感じてみてはいかがでしょうか。
菓銘都をどり
店名鍵善良房
住所京都市東山区祇園町北側264番地
電話(075)561-1818
2016
413

春の日和

桜色に彩られていた京都は、 染井吉野の花吹雪が舞い、新緑の季節へと移り変わろうとしています。
紅葉に目を向けると瑞々しい若葉が芽生えはじめています。
とは言いましても京都の桜シーズンは、まだ終わりません。

賀茂川沿いに全長800メートル続く桜の並木道『半木(なからぎ)の道』。
そして、谷崎潤一郎が小説『細雪』の中で「紅の雲」と称えた平安神宮神苑の桜。
いずれも八重紅枝垂れ桜が見頃を迎えています。
風にたなびく美しい紅色の桜を目にしないと、京都の桜を見た気がしないと思う方もいらっしゃるのでは
ないでしょうか。

この時期の京都でのもう一つの楽しみは、京の『をどり』。
4月1日より始まった祇園甲部の『都をどり』に続いて、4月2日からは宮川町の『京おどり』も華やかに開催されて
います。
この『をどり』の楽しみは、芸妓さん、舞妓さんの舞い踊る姿はもちろんのこと、「茶券付特別席」を求めると
開演前に受けることができる芸妓さん、舞妓さんがお点前をおこなう茶席。おみやげとして持ち帰ることができる
団子皿の上にのせられたお菓子、そしてお抹茶をいただきます。

今回は、『都をどり』の茶席でいただくことができるお菓子をご紹介させていただきます。
桜の焼印が押された薯蕷饅頭。
四月中旬までは、写真のような桜色のぼかしが入れられていますが、それ以降は葉桜の趣きを感じることができる
緑色のぼかしへと変わります。
お菓子から今の京都をぜひ感じてください。
菓銘春の日和
店名とらや 京都一条店
住所京都市上京区烏丸通一条角広橋殿町415
電話(075)441-3111
2016
420

山吹

京都では新緑に癒される日々が続いています。
言うまでもありませんが京都には多くの寺社があります。
寺社には様々な草木が植えられており、新緑を身近に感じることができます。

ただ今、松尾大社では、約3000株の山吹が見頃を迎え、萌黄色と山吹色の世界が境内に広がっています。
この時期、関西一の山吹の名所である松尾大社には多くの参拝者が訪れます。
松尾大社境内を流れる一ノ井川のほとりには、多くの山吹が花を咲かせ参拝者の目を楽しませています。
水面には、その山吹が映り、幻想的な光景となっています。
一ノ井川に架かる橋に身をおいていると、どこか違う世界に迷い込んだかのような不思議な感じになります。

今回は、特別にお願いをして作っていただいた山吹を題材にしたお菓子をご紹介させていただきます。

まず写真左側は、一輪の山吹の花を意匠にしたお菓子です。
菓銘を『山吹』と名付けました。
そして、写真右側は、春の終わりが近づいている情景を意匠にしたお菓子です。
菓銘を『晩春』と名付けました。
春から初夏へ、季節のうつろいを感じるお菓子です。
菓銘山吹
店名笹屋吉清
住所京都市左京区下鴨東半木町67
電話(075)781-0904
2016
427

藤花

今年の京都は季節が少し早く進んでいるようです。
藤棚があるほとんどの寺社ではもう既に藤の花が見頃を迎えています。
そよ吹く風にたなびく姿は優雅そのもの。
その様子から高貴な花として奈良時代より親しまれてきました。

また、寿命が長く、繁殖力が強いことからおめでたい植物とされ、家紋や文様としても用いられてきました。
垂れ下がった藤の花を円状にあらわした『下り藤』。
藤の花を上にして円状にあらわした『上り藤』など様々なデザインがあります。
暮らしの中で無意識のうちに藤の花のデザインにみなさんも触れていることだと思います。

お菓子の世界でも藤の花の意匠は様々。
今回は、その藤の花を意匠にしたお菓子のご紹介です。
藤の花の青みがかった『藤色』と新緑の『萌黄色』のぼかしが藤の花の高貴なイメージを上手く引き出している
薯蕷製のお菓子です。
藤の花のお菓子から初夏へと向かう京都を感じてみませんか。
菓銘藤花
店名緑菴
住所京都市左京区浄土寺下南田町126-6
電話(075)751-7126
2016
54

かしわ餅

ゴールデンウイークに入り、みなさんはどのようにして過ごされているのでしょうか。
他府県から京都にお越しになられて京都を満喫されている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

明日は五節句の一つ『端午の節句』。
端午の節句に食べる和菓子といえば『ちまき』と『柏餅』。
「『ちまき』と『柏餅』、どちらを食べるのが正式ですか?」と尋ねられることがあります。
そもそもは、『ちまき』は関西、『柏餅』は関東で食べられていましたが、時代を経て現在のようになりました。

ちまきの由来は、中国から伝来したものです。
中国の屈原の故事から邪気を祓うものとされています。
古くは茅(ちがや)の葉で包んでおり、そこからちまきと呼ばれるようになりました。
そして、『柏餅』。
柏餅の由来は、ちまきとは違い、江戸時代に生まれた日本独特のお菓子です。
柏の木は古来から神聖な木とされ、柏の木に神が宿っているということから『拍手(かしわで)を打つ』と言う言葉が
生まれたそうです。

その柏の木は新芽が出ないと古い葉が落ちないために『子どもが成長するまで親は亡くならない』、『跡継ぎが途絶
えない』ということに結びつき縁起物のお菓子となりました。
明日の節句では、この由来を思い出しながら召し上がってみてはいかがでしょうか。
菓銘かしわ餅
店名船屋秋月
住所京都市右京区宇多野福王子町13-3
電話(075)463-2624
2016
511

葵餅

京都市内を散策していると『ふたば葵』のモチーフが目に飛び込んできます。

新緑の季節。
葵祭が行われる5月です。
5月15日には、平安貴族装束で500名以上と牛、馬あわせて40頭の行列が京都御所から下鴨神社経て、上賀茂神社へ
向かう、葵祭の『路頭の儀』をはじめとする神事が執り行われます。
ふたば葵と桂の枝葉を組み合わせて作られた『葵桂』を装飾した行列が新緑の京都市内を進んでいく姿は優雅その
ものです。

『祇園祭』、『時代祭』と並んで京都三大祭の一つとして紹介されますが、私は、奈良・春日大社の『春日祭』、
京都・石清水八幡宮の『岩清水祭』と並んで『三勅祭』であると紹介しています。
路頭の儀だけが『葵祭』だと思われがちですが、もう既に5月1日から『競馬会足汰式(くらべまえあしぞろえしき)』
など葵祭の前儀が執り行われ、明日5月12日には、御蔭山より下鴨神社に神霊を迎える神事『御蔭祭』が執り行われ
ます。
この『御蔭祭』を終えると、5月15日が好天である事を願い、路頭の儀の当日を迎えるのみとなります。

今回は『葵祭』を題材にしたお菓子をご紹介させていただきます。
白こしあんを道明寺で包み、氷餅をまぶしたお菓子です。
こちらのお菓子を眺めていると、藤の花で飾られた御所車(牛車)が優雅に進んでいく様子が目に浮かんできます。

今年は『路頭の儀』が行われるのが日曜日にあたります。
日頃は、仕事で行くことができない方も、ぜひこの機会に王朝風俗の伝統が残されているお祭りを実際の目で見られ
てはいかがでしょうか。
菓銘葵餅
店名老松(北野店)
住所京都市上京区北野上七軒
電話(075)463-3050
2016
518

みどり風

先日、葵祭が無事に終わりました京都市内は、青々としていた木々の葉がより一層、色濃くなってきました。
京都市街地を取り囲む山々を毎朝、眺めては季節の移ろいを感じています。
青葉の茂った木々の木陰を表す言葉『緑陰』、新緑の間を吹く風を表す言葉『薫風』などという言葉が心地よく
感じる時期へと向かいつつあります。
近年、『青楓』のことを『青もみじ』という言葉に置き換えて使われるようになり、閑散期と呼ばれていたこの時期
の京都でしたが、今では青もみじ狩りを楽しむ多くの観光客で賑わっています。

陽に透けて浮き立つように輝く萌黄色のもみじの葉。
この時期だけの素晴らしい光景です。
和菓子の世界でも、この時期は『青楓』を題材にした多くのお菓子を見かけます。
今回、ご紹介するお菓子がその中のひとつです。

楓の木立を吹き抜ける風。
その風に揺られる楓の葉。
清々しい光景が目に浮かんできます。
こしあんを焼き皮で包んだ、まさに今の京都を表現したお菓子です。
菓銘みどり風
店名鶴屋吉信
住所京都市上京区今出川通堀川西入
電話(075)441-0105
2016
525

光の舞

葵祭で始まった5月ですが、早いもので残すところあと一週間をきりました。
この時期になると梅雨入りの時期が気になるところですね。
ジメジメとした梅雨の時期は嫌いという方もいらっしゃると思いますが、個人的には好きな時期です。

寺社で雨音を聴きながら見る庭園。
雨に濡れた石畳、そして紅葉や柳などの緑鮮やかな葉から滴り落ちる雨の雫。
京都の素晴らしさを存分に感じることができる梅雨の時期ならではの情緒溢れる光景です。

この時期のもうひとつの楽しみといえば、『蛍』。
哲学の道、上賀茂神社、下賀茂神社、祇園白川巽橋など……。
京都市街地では、あちらこちらで身近に蛍を鑑賞することができます。

その中でも私が近年、毎晩のように気軽に訪れている場所があります。
二条大橋の北西詰から階段を下りると鴨川から分岐する水路『みそそぎ川』が流れています。
その川でゲンジボタルが淡い光を放ちながら舞う様子を見ることができます。
この周辺は車の往来が激しく、蛍が光を放ちながら舞うような場所にはとても思えませんが、地元の方々の長年の
努力のおかげで市街の喧騒の中でも蛍の光を見ることができるようになりました。
今年はどのような蛍の飛び交う様子を見ることができるのか楽しみです。

今回は、その『蛍』を題材にしたお菓子をご紹介させていただきます。
淡く光る蛍が川辺を舞う情景を澄んだ川の水をイメージした色の外郎で包んだお菓子です。
ぼんやりとぼかされている草の緑、そして蛍と蛍が放つ光。
まるで印象派の絵画のようなお菓子です。
菓銘光の舞
店名二條若狭屋
住所京都市中京区二条通小川東入る西大黒町333-2
電話(075)231-0616
2016
61

早苗

2016年6月が始まりました。
旧暦では、6月は『水無月』。
水が無い月と書きますが、『な』は所有格を表す後置詞で「水の月」を意味します。
ここまでで、「あの、お菓子ね!」と思われる方もいらっしゃることでしょう。

でも、今回は三角形のあのお菓子ではありません。
あのお菓子のご紹介はまたの機会に!

この時期、水と関わりの深いものの一つに田植えが挙げられます。
田に水が入り、若苗を植える時期です。
先日、美山町を訪れましたが、田には整然と若苗が植えられて、佳き日本の光景を目にすることができました。
その光景を見ているだけで心が癒されます。

6月に入り、田植祭が各所で行われます。
そのひとつが『伏見稲荷大社』です。
現在では、伏見稲荷大社は商売の神様として有名ですが、そもそもは『稲荷』とは稲を荷つぐという意味で農耕の
神様です。
伏見稲荷大社では、6月10日に田植祭が執り行われます。
『ご料米(ごりょうまい)』と呼ばれる神事に使われる神聖なお米の早苗を田に植え五穀豊穣を祈願する御祭です。

今回、ご紹介するお菓子は、その田植を題材にした意匠です。
黒糖きんとんを田に見立てて、若苗が整然と植えられている様子を表現したお菓子です。
黒糖には、波照間産の黒糖を使用しているため、黒糖独特のとがりのある甘みではなく、まろやかな甘みに仕上がっ
ています。
菓銘早苗
店名愛信堂
住所京都市上京区元誓願寺通堀川西入る南門前町426
電話(075)411-8214
2016
68

あじさい

6月となり、各地の梅雨入りの話題を耳にするようになってきました。
気象庁の発表によれば、京都は4日に梅雨入りとなったそうです。
テレビを見ていると、『ジメジメとした梅雨の嫌な時期・・・・・・』という表現がよく使われていますが、
そのように感じるかは心の持ち方一つのような気がします。

傘に弾けるやさしい雨音は心地よく、雨が降っている京都の光景はどこを切り取っても情緒があり、
とても画になります。

そして、梅雨の時期に心を癒してくれるのが紫陽花。

寺社のみならず、ご家庭のお庭やお店の玄関先で可憐に咲いている紫陽花は、もしかすると桜よりも身近で
皆さんが好きな花なのかもしれません。
紫陽花は、華やかな外観から西洋の花のように思われがちですが、実は万葉集にも登場する日本古来の花です。
紫陽花の魅力は、丸く可愛らしい『手まり咲き』と呼ばれる姿と、紫陽花の別名『七変化』と呼ばれるように、
時間の経過とともに花弁の色が変化していくことです。
 
その理由はアントシアニンという紫陽花に含まれる色素と補助色素。そしてアルミニウムのバランスによってもたら
されています。
咲き始めは黄緑色。
そこから、アルミニウムが含まれている花は青色に。
そして、アルミニウムが含まれていない花は赤色へと変わります。
その後、紫へと移り変わります。
この事は、紫陽花が育てられている土壌のpH度に関係しているそうです。
簡単に言えば、『酸性であれば青、アルカリ性あれば赤』と言われています。
少し化学的な話題になってしまいましたが、不思議な魅力ある花には違いありません。

今回、ご紹介するお菓子は、その紫陽花の意匠です。
きんとん製の紫陽花の上に散りばめられた錦玉。
しっとりと雨に濡れる風情を感じるお菓子です。
今年の梅雨を楽しんでみませんか。
菓銘あじさい
店名山もと
住所京都市東山区東大路渋谷通上がる常盤町459-1
電話(075)561-2250
2016
615

あじさい

今年の3月より始まりました【月刊京都版 きょうの『和菓子の玉手箱』】。
早いもので、今回が16回目の連載となります。

今までは、あまり私自身の事について触れてきませんでしたが、今回は私の想いをお届けします。

写真のお菓子をご覧になり、みなさんはどのように感じられたでしょうか。
「わぁ、キレイ」、「美味しそう、食べてみたい」、「涼しげで、この時期にぴったり」など、
感想は様々だと思います。
実は、こちらのお菓子との出会いがきっかけとなり、現在の活動を行なっています。

和菓子ライフデザイナーとして活動している私ですが、「和菓子屋さんの方ですか?」というご質問を
よくいただきます。
答えは、「和菓子屋ではなく、ただの和菓子好きです」
しかも、数年前までは、上生菓子の世界を知りませんでした。
そのような私が、写真のお菓子に出会ったのが四年ほど前。
初めて見た錦玉で作られた紫陽花のお菓子。
あまりの素晴らしさに見惚れて食べることを忘れるほどでした。
それ以降、和菓子屋さんに通いつめる日々が始まりました。
四季折々の情景や花を題材にしてお菓子を作られている事を知り、そのお菓子に込められている想いを存分に
感じる為に、毎朝、京都市内を取り囲んでいる山々の様子を見ることが日課となりました。

そして、様々な寺社に一年を通して訪れるようになりました。
お菓子をきっかけとして私の人生は大きく変わりました。
『花鳥風月を楽しむ人生』によって、小さな幸せが満ち溢れるような毎日となりました。
今の時期は、『紫陽花』。
様々な紫陽花を見て、そして、紫陽花のお菓子をいただいて毎日を楽しんでいます。
お菓子がもたらしてくれた幸せ、『手のひらの幸せ』。
その『手のひらの幸せ』を、みなさんにお裾分け。

一人でも多くの方に『手のひらの幸せ』に共感していただける事を願い、このような活動を行っています。
菓銘あじさい
店名中村軒
住所京都市西京区桂浅原町61
電話(075)381-2650
2016
622

沙羅双樹

梅雨真っ只中のこの季節、みなさんはいかがお過ごしでしょうか。
京都には、“この時期だからこそ”のお寺が沢山ありますが、その一つがこちらです。

京都駅よりJR嵯峨野線に乗り嵯峨嵐山方面へ。
車窓から見える京都の風景を見ながら電車に揺られて約10分。
四つ目の駅『花園駅』で降り、北東へ歩いて5分ほどで妙心寺の南総門に到着します。
立派な南総門から境内に一歩足を踏み入れると、そこには広大な敷地が広がり、伽藍が立ち並んでいる光景は、
まるで時代を遡ったかのような錯覚に陥ります。

この日は雨。
雨に濡れた石畳に誘われるように、傘を差した人々が向かった先には、妙心寺の塔頭寺院の一つ『東林院』。
お寺の入り口にかけられている『沙羅双樹の寺』と書かれた掛札。

普段は非公開ですが、沙羅双樹(ナツツバキ)の咲く、この時期に『沙羅の花を愛でる会』と題して一般公開が
行われています。
沙羅双樹といえば、『平家物語』冒頭の『祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰の
理をあらわす・・・・・・』。
誰もが知っている有名な一節です。
この平家物語の冒頭に出てくる『沙羅双樹』とは、ナツツバキのことです。

本来の沙羅双樹は、熱帯に育つ樹木で日本では自生することがない為、朝に咲いて夕方に落花する一日花の
ナツツバキの儚さを日本では沙羅双樹にたとえているそうです。

苔むした庭園に植えられたナツツバキの鮮やかな白い花が夕刻には苔の上に落ちて最期を迎える光景に、つい人生を
重ね合わせてしまう方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、妙心寺北総門前に佇むお店のお菓子をご紹介させていただきます。

苔むした庭園に落ちる沙羅双樹の花。
その様子を抹茶餡のそぼろを苔に見たてて表現したきんとん製のお菓子です。
沙羅双樹の儚さをお菓子からも感じてみてはいかがでしょうか。
菓銘沙羅双樹
店名亀屋重久
住所京都市右京区谷口梅津間町
電話(075)461-7365
2016
629

水無月

早いもので一年の半分が過ぎようとしています。
明後日からは文月。
気分はもう既に祇園祭へと向かってしまっている私です。

祇園祭好きとしては、7月を目前に控えた、ここ数日間がたまらなく大好きです。
その祇園祭の前に大切な習わしがあります。
一年のちょうど折り返しにあたる6月30日、この半年の罪のけがれを祓い、残り半年の無病息災を祈願する神事
『夏越祓(なごしのはらえ)』が各神社で行われます。

神社境内に飾られた茅(ちがや)を束ねて作られた大きな輪を『水無月の夏越しの祓する人はちとせの命のぶ
というなり』と唱えながらくぐる『茅の輪くぐり』を行います。
茅の輪をくぐり抜けると、夏の疫病や災厄から免れるといわれています。
その『夏越祓』にいただくのが、六月の代表的な和菓子であります『水無月』です。
水無月は白の外郎生地に小豆をのせた三角形のお菓子です。

最近では、外郎生地に抹茶や黒糖などの味がついた様々な水無月もありますが、やはり、まずは白い外郎生地の
水無月をいただきたいものです。
その理由は、この外郎と小豆にはそれぞれの意味があります。
小豆には悪魔払いの意味があり、外郎で模られた三角の形は暑気を払う氷を表しているといわれています。
その昔、旧暦の6月1日は『氷の節句』といわれ、室町時代には幕府や宮中で年中行事とされていました。
『氷室(ひむろ)』(現在の北区西賀茂地区)で冬に製造して貯蔵させていた氷を御所に取り寄せて口にして
暑気を払ったそうです。
しかし、庶民にとっては夏の水はとても貴重で、氷はそれ以上に貴重で簡単に手にいれることはできず食べられる
ものではなかったそうです。

そこで、氷をかたどったお菓子が作られるようになりました。
それが水無月の始まりだそうです。
その当時の人々の夏の氷に対する憧れが水無月には詰まっていると言っても過言ではないのかもしれません。
菓銘水無月
店名松壽軒
住所京都市東山区松原通大和大路西入弓矢町19-12
電話(075)561-4030
2016
76

星祭

7月に入り、四条烏丸界隈では祇園祭のお囃子の練習が熱をおびてきました。
日に日に祇園祭ムードが高まってきている京都です。

明日は五節句の一つ『七夕(しちせき)の節句(供)』です。
この節句は『笹の節句』とも呼ばれています。

6日の夜に短冊に願い事を書き、笹に飾ります。
そして7日には、その七夕飾りを海や川へ流す『七夕流し』によって神様に持ち去ってもらいます。
この七夕の風習は、日本の行事と中国の乞巧奠(きこうでん)、星祭りが合わさったものです。
古来、日本では、穢(けがれ)を水に流す禊(みそぎ)の行事が盛んに行われてきました。
そして、中国の乞巧奠とは、女子が機(はた)織りや裁縫が上達するように祈願する行事です。
また星祭りは、牽牛星と織女星が年に一度、天の川をはさんで出会うという伝説です。
牽牛星は日本で言う、彦星。
幼い頃に聞かされた織姫と彦星との物語を聞いて子供ながらにして切なくなったことを思い出します。

今回は、七夕にちなんだお菓子をご紹介させていただきます。
短冊がそよぐ風に揺れた情景を表現したお菓子です。
真っ白い『きんとん』にしている理由は、あえて特定の色を使用しないことによって、自由に想像して
いただけるようにという想いからだそうです。
それは、情景の背景は、笹の緑色であったり、夜空の黒色であったり、人ぞれぞれ想像するものが違うから、
ということでしょう。
つくね芋で作られた『きんとん』に可愛らしく錦玉羹で模られた短冊が配置されているお菓子です。
職人さん曰く、京都らしく、はんなりとした雰囲気の意匠を心がけたそうです。

みなさんの願いが叶いますように!
今回はそんな想いでお届けさせていただきました。
菓銘星祭
店名長久堂
住所京都市北区上賀茂畔勝町97-3
電話(075)712-4405
2016
713

葛焼き

暑い日々が続いている京都市内ですが、四条烏丸界隈には、徐々に鉾が立ち並んできました。
この光景を見ると、やはり昨年の事を思い出さずにはいられません。
昨年は台風に振り回された祇園祭・前祭でした。
宵山では山鉾を灯す駒形提灯が山鉾から取り外され、灯りのない祇園祭・宵山という見慣れない
光景となりました。

そして、迎えた巡行当日。
開催自体が危ぶまれましたが、なんとか強風と雨の中で行われた山鉾巡行。
あどけなさが残るお稚児さんが真剣を振りかざし、立派に注連縄切りの儀式を終えた時は自然と
涙が溢れていました。
山鉾が私の目の前を通り過ぎる際に、時折り吹く突風に鉾が揺さられているのを見て
『倒れないで!無事に終わって!』と願いながら固唾を飲んで見守っていました。

今年はどのような祇園祭となることでしょうか。
今回は、祇園祭にちなんだお菓子をご紹介させていただきます。
京都の夏には欠かせないお菓子である『葛焼き』。
古くから京都では夏の茶菓子として好まれてきました。
葛に小豆餡を練り込み、枠に流して蒸しあげたのち、片栗粉をつけて程よく焼いたお菓子です。

この時期、八坂神社のご神紋である左三巴と木瓜紋(もっこうもん)があしらわれ、祇園祭を感じられる
お菓子となります。
祇園祭にお出かけの方は暑さ対策を十分にしてお出かけくださいね。
菓銘葛焼き
店名亀屋則克
住所京都市中京区堺町通三条上ル大阪材木町702
電話(075)221-3969
2016
720

桔梗

京都らしい蒸し暑い中で行われた祇園祭前祭巡行、そして神幸祭。
日曜日の開催ということもあり、大勢の見物客で賑わいました。
今週も祇園祭後祭で鉾が立ち並び盛り上がりをみせてきた四条烏丸界隈です。
四条烏丸界隈が注目されがちになるこの時期ですが、京都市内では桔梗の花が涼し気に咲いています。
この話題を意外に思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

それもそのはず。
桔梗といえば、『萩』、『尾花』、『葛』、『撫子』、『女郎花(おみなえし)』、『藤袴』、そして『桔梗』。
秋の七草のひとつです。

万葉集で山上憶良がこのように詠んでいます。
『秋の野に 咲きたる花を 指(および)折り かき数ふれば 七種(ななくさ)の花』
そして、この歌に続き、
『萩の花 尾花 葛花 撫子の花 をみなへし また藤袴 朝顔の花』

この歌の中に朝顔と出てきますが、この時代には、私たちが知っている朝顔は、まだ日本にはなく、
一般的には桔梗と解釈されています。
また、桔梗は俳句の世界では秋の季語としてもあつかわれます。
かつては、秋に咲く花だったようですが、品種改良によって初夏から咲き始める花になったそうです。

このように昔から、桔梗はとても身近な秋の山野草を代表する草花の一つとして親しまれてきました。
しかしながら、現在では野生のものは絶滅危惧種に指定されている花の一つです。

今回は、その桔梗にちなんだお菓子をご紹介させていただきます。
桔梗のお菓子は、秋の七草として晩夏から初秋にかけ店頭に並べられるところもあれば、
開花にあわせて店頭に並べているところもあり、とても長い期間、私たちの目を楽しませて
くれるお菓子の一つです。
こちらのお店では開花の時期に合わせて店頭に並べられています。
思わず見惚れてしまうような綺麗な色合いの煉切製のお菓子です。
菓銘桔梗
店名亀屋光洋
住所京都市左京区一乗寺払殿町17-12
電話(075)711-3764
2016
727

花火

早朝から蝉の鳴き声が目覚まし時計代わりになっている真夏らしい日々です。
早いもので7月も残すところあとわずかとなりました。

祇園祭後祭山鉾巡行が終わり、徐々に平静を取り戻しつつある四条烏丸界隈です。
(祇園祭は、7月31日に八坂神社で執り行われます疫神社夏越祭まで続きます。)
先日は伏見稲荷大社で本宮祭が行われ、下鴨神社では、ただ今、みたらし祭が行われ無病息災を願う人々で
賑わっています。

夏の代表的な年中行事が次々と行なわれている京都市内です。
日が暮れて京都市内を散歩していると浴衣姿で線香花火をして楽しんでいる人たちを見かける
ようになってきました。
夏といえば花火ですね。

京都府内では、亀岡や丹後などで花火大会は行われていますが、京都市内では大きな花火大会は存在しません。
とはいえ、やはり『ドォーン』と大きな音を伴い打ち上げられる花火を気軽に見たいものです。

実は、京都市内で見ることができる打ち上げ花火があります。
7月30日(土)と31日(日)に国立京都国際会館で行われる『乾杯の夕べ』というガーデンパーティーイベントです。
その中で10分から15分くらい打ち上げ花火が上がります。
私は毎年、こちらの花火を見て真夏の夜のひと時を過ごしています。

場所によっては、京都市内の北区や左京区からも見えますのでお近くの方は宝ケ池方向を見てみてくださいね。
今回は、その花火にちなんだお菓子をご紹介させていただきます。
真夏の漆黒の夜空に煌く花火を四色の羊羹と金粉で表現して、下地となる黒色の羊羹は大勢の観衆の頭を表現
しています。
豪華絢爛という言葉が相応しいお菓子です。
機会がなく、花火を見ることができない方はぜひこちらのお菓子から夏の風物詩を感じてみてください。
菓銘花火
店名松彌
住所京都市中京区新烏丸通二条上ル橘柳町161-2
電話(075)231-2743
2016
83

もらい水

【朝起きて井戸に水を汲みに来てみると、朝顔のつるがつるべに巻きついていて水が汲めません。
切ってしまうのがかわいそうなので、近所に水をもらいに行きました。】という内容の俳句です。
その俳句から名付けられているのが今回のお菓子です。

朝顔に朝露がついた情景を一粒の錦玉をあしらうことによって表現しています。
貴重な丹波産の白小豆を使用した白こしあんを練切りで包んだお菓子です。

『銘』を聴き、お菓子を愛でていると、爽やかな陽射しを浴びて美しく咲いている朝顔の情景が
目に浮かびます。
そして、朝顔のツルを切らずにそのままにしておいた加賀千代女の心の優しさを感じてとても
気持ちが和みます。

口の中に広がる優しい風味豊かな白小豆の味は、まさにこの俳句そのものです。
お菓子の『銘』の意味が解らない場合は、遠慮なさらないでお菓子屋さんに訊ねてみては
いかがでしょうか。
『銘』の素晴らしさを知っていただき、お菓子と関わっていただくと、新たな世界が広がって
くると思います。
菓銘もらい水
店名紫野源水
住所京都市北区小山西大野町78-1
電話(075)451-8857
2016
810

遠山

今週に入り、迎え鐘が鳴り響く京都市内。
鐘の音を聞く度に、この時期らしい風情を感じると共に、ご先祖様に想いを馳せながら過ごしています。
京都市内では、この時期になるとご先祖様を迎える行事が『六道まいり(六道珍皇寺)』をはじめとする様々な
お寺で執り行われます。
そして8月16日には、五山に炎が灯り、あの世からお盆で迎えたご先祖様を極楽浄土へと迷うことなく送る大切な
行事が執り行われます。
京都の8月の風物詩として大勢の方々が『五山の送り火』を観ようと他府県からお越しになられます。

観光行事のような感覚で賑やかに観覧されることには少し抵抗を感じてしまうのが、私の正直な気持ちです。
京都で長年の間『五山の送り火』に関わる方々にとっては、送り火を見て、心穏やかにご先祖様のことを想い、
別れを惜しむ大切なひと時です。
どうかお一人でも多くの方がその事を理解して、騒がずに心穏やかに『五山の送り火』を観ていただくことを切に
願います。
今回は、その『五山の送り火』にちなんだお菓子をご紹介させていただきます。
送り火の意匠のお菓子は、この時期になると様々なお店から販売されています。
代表的なお菓子の一つに、この時期らしく、葛で『大』を包んだものがあります。

しかし、こちらのお菓子は葛製のお菓子ではありません。
実はこちらのお菓子は、暑いこの時期にお客様に冷めたく召し上がっていただけるように私がお店にお願いして
作っていただいたものです。
あえてこちらのお菓子をお願いしたのには理由があります。

葛のお菓子は、見た目には涼しげなのですが、長時間にわたり冷蔵庫に入れて置くと白く濁ってしまい、葛らしい
涼し気な雰囲気を損なってしまいます。
そこで、こしあんを柔らかい羽二重で包み、その周りを寒天でコーティングしてもらいました。
これで長時間にわたり冷蔵庫で冷やすことが可能になり、冷たいお菓子をお客様に召し上がっていただくことが
できます。
嵐山の法輪寺から、はるか遠く、東の方角に見える東山如意ヶ嶽の『大文字』を表現しました。
そこから付けた銘が『遠山』です。
何度か試作をしていただき完成したお菓子がこちらです。
菓銘遠山
店名聚洸
住所京都市上京区大宮寺之内上ル
電話(075)431-2800
2016
817

とんぼ薯蕷

昨夜、京都の夜空に浮かんだ『送り火』。
残念ながら、悪天候の中でのご先祖様とのお別れとなりました。

しかしながら、山にともる灯りからは過ぎゆく夏のひと時を感じられたのではないでしょうか。
今週末の8月20日には、大覚寺で京都の夏の夜を締めくくる厳かな行事『宵弘法』が執り行われます。
『嵯峨の送り火』とも呼ばれているこちらの行事は、大沢池中央に組まれた護摩壇に火を灯し、お経を僧侶が
唱えご先祖様を冥界へと送ります。

僧侶が唱えるお経と共に夜空に舞う火の粉は、まるで冥界に帰って行くご先祖様の魂のようにも見えます。
こちらの行事が終わると京都の夏は終わり、いよいよ秋へと向かいます。

今回は、夏から秋へと移り行く光景を感じることができるお菓子をご紹介させていただきます。
大沢池や広沢池の水面が太陽に照らされてキラキラと光る中、気持ち良さそうに飛び交うトンボ。
トンボを数多く見かける時期となってきました。

真っ白な薯蕷饅頭に可愛らしいトンボの焼印。
秋の気配を感じずにはいられない意匠のお菓子です。
まだまだ暑い日々が続きそうですが、お菓子から季節の移ろいをひと足早く感じてみてはいかがでしょうか。
菓銘とんぼ薯蕷
店名嵯峨嘉
住所京都市右京区嵯峨広沢御所ノ内町35-15
電話(075)872-5218
2016
824

ニコニコ饅頭

先日の土曜日と日曜日。
お地蔵さまが祀られている祠(ほこら)が提灯などで飾り付けられた周りで、地域の子供たちが楽しそうに過ごして
いる姿を数多く見かけました。

本日8月24日は、地蔵菩薩の縁日。
各町内に祀られているお地蔵さまに感謝をして、その地域の子ども達が無事に成長することを祈る行事を8月23日、
24日に『地蔵盆』として行います。
今では、参加する子供たちや大人たちの事情に合わせて、その前後の土曜日と日曜日に行うようになって
きています。
さらに、近年では、子供の数が減り、二日間行っていた地蔵盆が一日だけしか行わない、地域もあるようです。

京都市内では、先日の土曜日と日曜日に多くの町内で地蔵盆が行われました。
お地蔵さまを祠(ほこら)から出して、綺麗に着飾り、たくさんの花や果物などをお供えして提灯を飾ります。
飾り付けられた祠の前では、お坊さんの読経が始まり、お坊さんを取り囲むように集まった地域の子供たちと
大人たちも手を合わせてお地蔵さまにお祈りをします。
その後、子供たちは、そのお地蔵さまの前で見守られながら、色んなゲームをしたり、お菓子を食べたりして一日を
楽しみます。

町内によっては、お坊さんの説法を聴いたり、数珠操りを行ったりするところもあります。
地蔵盆は、子供たちが楽しむ場であると共に、希薄になってきたといわれる地域住民の繋がりを保つ役割を担って
いる大切な行事でもあります。

今回は、その『お地蔵さま』にちなんだお菓子をご紹介させていただきます。
そもそもは、お地蔵様の日にお店の方が慕っている小浜にある佛国寺の和尚さん(原田湛玄老師)の為に作った
お菓子だそうです。
お菓子をいただいた和尚さんが、詩と共に付けた菓銘が『ニコニコ饅頭』です。

『御地蔵様に守られ
 お地蔵様のように
 いつもニコニコ
 あたたかい心で
 親切に
 すべてにつくしてゆく
 ニコニコまんぢう』

お地蔵さまをモチーフにした黒ごまの風味が口の中に広がるお饅頭。
お地蔵さまの優しさを感じることができるお菓子です。
和尚さんがお店の方に贈られたコチラの詩を思い浮かべながらいただけば幸せが訪れること間違いなしですね!
菓銘ニコニコ饅頭
店名中村軒
住所京都市西京区桂浅原町61
電話(075)381-2650
2016
831

こぼれ萩

早いもので明日からは『長月』。
長月の語源は諸説ありますが、夜が徐々に長くなる『夜長月』が略されたそうです。

そして、明日は新月。
これから満月へと向かう月明かりの下で心地よい秋の虫の音に癒されながら過ごすことができる日々。
今年も存分に秋の夜を楽しみたいものですね。
これからの時期、秋を感じる花といえば、秋の七草の一つでもある『萩』を私は真っ先に思い浮かべます。
しなやかに枝垂れた枝葉に、わずかに青みがかった赤紅色の花を見かけるようになってきました。

見頃に至るまでは、まだまだ時間がかかりそうですが、咲き始めた萩を見ていると、こぼれんばかりに咲いた
萩の花が秋風に揺れる様子を想像してしまいます。
京都で萩の名所として、多くの観光客が訪れる『梨木神社』や『常林寺』。
いずれも、見頃になると多くの萩の花が咲き、訪れる人々を魅了します。

そして、もう一つ。
土塀沿いに萩が枝垂れ、独特の雰囲気を見ることができる『迎称寺』。
非公開のため寺院内に入ることはできませんが、寺院外から何とも言えない趣きのある雰囲気を見ることが
できます。
特に雨で濡れた土塀と萩との光景は一段と情緒的で、一見の価値ありです。
天候の違いで、全く雰囲気が異なる光景を見ることができることも見所の一つです。
また、近くには真如堂があり、こちらも境内の至るところで萩の花を見ることができます。
まだ、一度も訪れたことがない方は併せて見頃の時期に訪れてみてはいかがでしょうか。

今回は、その『萩』にちなんだお菓子をご紹介させていただきます。
緑餡を葛で包み、いら粉を散らした意匠は、枝垂れた葉に花をつけた萩の様子を表現しています。
まだ、暑さが残るこの時期らしく、口当たりの良い葛製のお菓子となっています。
季節を少し先取りして、こちらのお菓子を召し上がり秋を感じてみてはいかがでしょうか。
菓銘こぼれ萩
店名長生堂
住所京都市左京区下鴨上川原町22-1
電話(075)712-0677
2016
97

着綿

週末の9月9日には、五節句の一つである『重陽の節句』が行われます。
『人日の節句』から始まった節句ですが、早いもので今年最後の節句となります。
五節句とは、1月7日の『人日の節句』、3月3日の『上巳の節句』、5月5日の『端午の節句』、7月7日の
『七夕の節句』、そして9月9日の『重陽の節句』。

古来より、奇数は縁起の良い陽数、偶数は縁起の悪い陰数と考えられていました。
その縁起の良い奇数が連続する日、特に9月9日は9という一番大きな陽数が重なる日として重んじられ、そこから
『重陽の節句』と呼ばれるようになりました。

菊の花が邪気を払い長寿に効くとされ、菊の花びらを浮かべた菊酒を飲み不老長寿を願います。
そして、もう1つ忘れてはならないのが、『菊の着綿(きくのきせわた)』という習わしです。
8日の夜に菊に綿をかぶせ、9日に露で湿ったその綿で体を拭い長寿を祈ります。
平安時代・宇多天皇の御代、宮中で重陽の行事として菊の着綿が行われていたことが、『紫式部日記』などに書き
記されています。

しかしながら、新暦となってからは、今の時期、まだ菊の開花には早く、また夜露が降りることもない為、その
風習を身近に見かけることはありません。
お菓子の世界では、赤菊に綿を被せた様子を表現した『菊の着綿』のお菓子を京都のお菓子屋でこの時期に見かける
ようになります。
私は毎年、『菊の着綿』のお菓子をいただき不老長寿を願っています。
みなさんもこちらのお菓子で不老長寿を願ってみてはいかがでしょうか。
菓銘着綿
店名千本玉壽軒
住所京都市上京区千本通今出川上ル
電話(075)461-0796
2016
914

十五夜

京都の町を歩いていると至るところで秋の虫の音が一段と大きく聞こえるようになり、秋の深まりを感じるよう
なってきました。

いよいよ明日は十五夜、『中秋の名月』です。
この時期は、1年の中で最も夜空が澄みわたり、月が美しく見えると言われています。
私は例年、広沢池から月を愛でています。
月明かりに照らされた芒と静けさの中で鳴り響く虫の音が秋の夜を素敵に演出してくれています。

その中でのんびりと十五夜の月を見ながら過ごすひと時を楽しみにしています。
お月見の際に飾られる芒(ススキ)。
月神様の依り代とされ、また魔除けの力があるとされています。

今回は、中秋の名月にちなんだお菓子のご紹介です。
十五夜に浮かぶ月に見立てた外郎製の中には、季節感を感じる栗あんが入っています。
ぼんやりと浮かぶ兎の模様が心に残る意匠です。
『月を愛でる』この文化はいつまでも残ってほしいですね。
菓銘十五夜
店名亀屋良長
住所京都市下京区四条通堀川東入ル醒ヶ井角
電話(075)221-2005
2016
921

丹波栗

今週の月曜にお彼岸に入り、お墓参りをされる方々を多く見かけるようになりました。

大原や北嵯峨あたりの田畑では、花を咲かせた秋草を目にするようになってきました。
控えめに花を咲かせる秋草が多い中、一際鮮やかに咲き、人目を惹く『彼岸花』。
彼岸花は日照時間で咲く花である為に、気温に左右されることなく、毎年、お彼岸のこの時期に合わせるかのように
花を咲かせます。
独特な花の姿である為に、好き嫌いの分かれる花かもしれませんが、個人的には、好きな花の中の一つです。

カメラを片手に畦道を歩きながら、彼岸花を見つけては撮影をして秋を楽しんでいます。
みなさんの秋の楽しみはどのようなものなのでしょうか。
とある有名飲料水メーカが過去に行った全国の20歳~69歳の男女を対象にしたアンケートで1位が『食欲の秋』
でした。
そして、秋を感じる食べ物といえばの質問には、1位が『栗』、2位が『サンマ』、3位が『柿』という結果だった
そうです。
(松茸が上位に入っていなかったのは意外です。)

今回は、そのアンケートで1位になった『栗』にちなんだお菓子をご紹介させていただきます。
季節感をとても大切にする和菓子では、この時期になると、もちろん『栗』の意匠を多く見かけるようになります。
今回は、一粒の栗の甘露煮を白こしあんで包んだ後、さらに練切りで包み、最後に羊羹にくぐらせたお菓子です。
もっちりとした食感がとても印象的な、この時期こちらのお店の代表的なお菓子です。
秋の嵐山を散策したついでに立寄ってみてはいかがでしょうか。
菓銘丹波栗
店名米満軒
住所京都市右京区嵯峨釈迦堂大門町28
電話(075)861-0803
2016
928

峯の秋

早いもので2016年9月もあと僅かとなり、京都市内では小学校や町内会の運動会が行われている様子を見かける
ようになってきました。

運動会で小学生や地域住民の方々が元気よく走り、応援している方々の笑顔や悔しがっている顔を見ているとこちら
まで元気をもらい幸せな気分になってきます。
これから、あちらこちらで運動会が行われると思いますが、はりきり過ぎて怪我をしないようにして、楽しい秋の
ひと時をお過ごしくださいね!

さて話題は変わりますが、和菓子屋さんなどで話をしていると、早くも紅葉の話題となることが多くなって
きました。
東山三条から蹴上にかけて植えられているハナミズキの葉が紅く色づき初めてきています。
そして、春に私たちの目を楽しませてくれた岡崎公園疎水の桜並木も少し色づきはじめてきています。
モミジの紅葉はまだまだ先ですが、その他の広葉樹の紅葉シーズンは、もう目前までやってきているように
感じます。

今回のお菓子は、『きんとん』を山に見立てて、峯の秋の深まりを表現しています。
峯の色づいた木々は、時が経つにつれて麓へと移り、『山粧う(やまよそおう)』と表現されるようになること
でしょう。

その頃には、こちらの『きんとん』の色合いも緑色がなくなり鮮やかな赤色や橙色となることでしょう。
これからは、お菓子からも深まりゆく秋を感じてみてはいかがでしょうか。
菓銘峯の秋
店名伏見駿河屋
住所京都市伏見区下油掛街174番地
電話(075)611-0020

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