月刊京都連載 和菓子歳時記
2017
14

福梅(写真右)・酉の賀(写真左)

あけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
2017年の第一回目の【月刊京都版 きょうの『和菓子の玉手箱』】をお届けします。

今年の元日は、全国的におおむね穏やかなお天気となり、各地で綺麗に昇る初日の出の話題がニュースとして
採り上げられていました。
京都・嵐山からは、残念ながら初日の出を見ることはできませんでした。
しかしながら、大堰川のせせらぎを聴きながら、雲が赤く染まる朝焼け、そして、昇っていくと共に雲の隙間から
降り注ぐ光のシャワー。
その光景を見て、新年に相応しい清々しい気分で元旦を迎えることができました。
きっと、みなさんも素晴らしい元旦を迎えられたことだと思います。

日本全体が、一年の中で最も祝賀の雰囲気となるこの時期。
和菓子屋には、初春を寿ぐ華やかな、おめでたい意匠のお菓子たちが並びます。
迎春の代表的な縁起物として親しまれている松竹梅や鶴などを模った意匠のお菓子。
そして、その年の干支にちなんだ『干支菓子』と呼ばれる意匠のお菓子と宮中歌会始の御題を題材に
して作られた『御題菓子』。
いずれのお菓子も今年は、幸せな年になりそうという気持ちにさせてくれるものばかりです。
御題菓子の話題は、宮中歌会始の開催が近づく次回にご紹介させていただきたいと思います。
今回は『干支菓子』についての話題を少しご紹介させていただきます。
みなさんがご存知の通り、干支は『子』から始まり『亥』までの十二支ですが、そのすべてが生き物。
そこでさまざまなお菓子屋のご主人からこのような話をよく耳にします。
「お客さんから、もっとわかりやすい、可愛らしいお菓子を作らへんの?ってよう言われますねん。
干支にあたる動物を綺麗に模って作ってしもたら、新年早々、黒文字で切ってしまわなあかん。
それを口に入れてもらわなあかんなんて、そんな縁起の悪いこと御贔屓さんにさせたらバチあたりますわ。
あくまで食べ物やから。
干支菓子は焼印か抽象的な意匠にどうしてもなってしまいますねん。
時代に合わせながら京菓子の文化を大切にしていくのもなかなか試行錯誤の連続ですわ」

そういう想いで作られていることを知ると販売されているお菓子の見え方が違ってくるから不思議です。
近年、伝統を守るという言葉をよく耳にしますが、それは私たち消費者側の教養もあってはじめて成り立つ
ものだと思います。
これからは、和菓子について、より多くの知識を得て、少しでも多くのことをみなさんにお伝えできればと
思います。

今回は『福梅』と『酉の賀(とりのが)』という銘のお菓子をご紹介させていただきます。
新年に相応しく、紅白のふっくらと福々しい形をした梅を模った外郎製のお菓子、『福梅』。
そして、もう一つが先ほど話題にしました干支菓子『酉の賀』。
こちらのお店の菓銘にはいつも感心させられると共にとても勉強になります。

名付ける際には、音の響きを大切にされているそうです。
『酉の賀』に含まれている『賀』は、賀正を意味していますが、『賀』のみの意味としては、
【喜び祝うこと】です。

今年の干支である『酉』の焼印を入れ、地面を赤色で表現して紅白に仕上げた、初春に相応しいお菓子です。
今年の第1回目のお菓子は、2017年が皆様にとって佳き年となりますように願いを込めて新春にちなんだ
お菓子をご紹介させていただきました。
菓銘福梅(写真右)・酉の賀(写真左)
店名鶴屋吉信
住所京都市上京区今出川通堀川西入
電話(075)441-0105
2017
111

野の春

新年を迎えてから早いもので京都ゑびす神社では、今年も賑やかに『十日ゑびす大祭(初ゑびす)』が執り
行われています。
テレビのニュースでは、開門と同時に西宮神社の境内を勇ましく駆ける『開門神事福男選び』の話題をよく目に
しますが、こちら京都ゑびす神社では、京都らしくはんなりと花街の舞妓さんが福笹と福餅の授与を行います。
京都ゑびす神社では、明日12日まで行われていますのでまだの方は、福をいただきに訪れてみてはいかがで
しょうか。

今回のお菓子は、京都ゑびす神社からほど近く、祇園にお店を構えている鍵善良房さんが販売されている
『勅題菓(ちょくだいか)』のご紹介です。

まず、「『勅題菓』って何?」と思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
新年に和菓子屋を訪れると『勅題菓』または『お題菓子』と呼ばれるお菓子を見かけます。
毎年、1月の中旬に皇居・宮殿で開かれる『歌会始の儀』。
一つの共通のお題で歌を詠み、披講する会のことを『歌会』といい、天皇陛下が年の始めの歌会として執り
行われる歌御会を『歌会始』といいます。
今年は、明後日の1月13日に行われる予定です。

京都の和菓子屋では、毎年、その『歌会始』のお題に合わせてお菓子を作るのが明治以降の慣例とされてきました。
勅題菓は、新年の祝い菓子と共に、この時期ならではのお菓子です

今回ご紹介するお菓子は、今年のお題である『野』を題材に作られました。
春を代表する『若葉色』、『桜色』、『菜の花色』の三色で構成された外郎製のお菓子です。

紀貫之が詠んだ
『春の野に 若菜つまむと こしものを 散りかふ花に 道は惑ひぬ (古今和歌集)』
という和歌を思い起こしながらといただくと、より一層味わい深いものになりそうです。

勅題菓は、毎年、様々なお題に合わせて意匠と菓銘を考えなくてはなりません。
その為、お菓子屋さんの豊富な教養と感性が問われると言っても過言ではないように思います。

以前、とある和菓子屋のご主人からこのような話を聞いたことがあります。
「勅題菓は、職人が作りたいものを作るという訳にはいかへん。
お題があり、新年らしい雰囲気も盛り込まなあかん。
また、よう分かってはるお客さんは、そのお菓子を見てお店の良し悪しを決めはったりしますねん。
そやから、勅題菓の意匠と菓銘を考えるのんは、簡単にはできませんねん」
その話からは、長年、京都で和菓子屋の暖簾を守り続けてきたご主人のプライドと心意気が私に伝わってきます。

その類の話を他のお店のご主人からもよく耳にします。
その一方で残念なことに近年では勅題菓を作らなくなったお店もあります。
その理由には、近年のお題が『静』、『本』、『人』などお菓子を作るには難しいお題が続いたという理由。

そして、もうひとつが、お客さんの中に、勅題菓はもとより『歌会始』そのものを知らない方が増えたことが
理由だそうです。
時代の流れと言ってしまえば、それまでですが、作らなくなったお店には、もう一度、作っていただきたいものです。
また、大変ながらにも今まで作り続けているお店には、これからもずっと作り続けていただきたいと思います。
京都の新年に勅題菓を楽しむ素晴らしい文化を改めて根付かせていただきたいと切に願っています。
菓銘野の春
店名鍵善良房
住所京都市東山区祇園町北側264番地
電話(075)561-1818
2017
118

山路

雪景色となった1月15日の京都市内。
これほどの素晴らしい雪景色を見ることができたのは、私の記憶が間違っていなければ2015年のお正月以来です。
いつにもまして寒さが厳しいにも関わらず京都市内の観光スポットは多くの観光客で溢れていました。
観光客の皆さんは、京都の素晴らしい雪景色を見て一生忘れられない思い出となったのではないでしょうか。

私も素晴らしい雪景色を一目見ようとカメラを片手に京都市内を回りました。
私がどうしても見てみたかったのが雪景色の『法然院』。
静寂を求めて春夏秋冬を問わず、日頃より、早朝によく訪れる寺院です。

耳を澄ましていれば、静寂の中から聞こえてくる自然が創り出す音の数々。
心地の良い水や風の音。
そして鳥や小動物の鳴き声。
静けさというものが、人が生きていく上で如何に大切かを教えてくれる寺院です。

この日は、まるで水墨画のような空間に身を置きながら、静寂の中から聞こえてきた雪の降り積もる音。
今回は、法然院からほど近くのお店が作る、雪にちなんだ意匠のお菓子をご紹介します。
ご紹介させていただくお菓子は、『こなし』の代表的な意匠の一つです。

抽象的な曲線で山並みを感じさせて、その時々の季節に合わせた色を使うことによって四季折々のお菓子に
仕上げています。
春は、よもぎ色と桜色など。
秋は、黄色と朱色など。
夏の暑い時期には、こなしは食べない為に作らないそうです。
仮に作るとしたら緑色と水色といったところでしょうか。

そして、冬は今回のような色合い。
雪を表現した『白』。
土の中から萌え出した草や芽などを表現した『よもぎ色』。

口の中でほんのり香るよもぎの風味。
春が近づいてきたこの時期らしいお菓子です。
土の中では、確実に春へと向かって成長している季節の移ろいを私たちにお菓子は伝えてくれます。
日々の生活に追われてつい忘れがちなことを思い出してみてはいかがでしょうか。
菓銘山路
店名緑菴
住所京都市左京区浄土寺下南田町126-6
電話(075)751-7126
2017
125

梅の雪

本日1月25日は、北野天満宮で今年になって最初の縁日が行われる日。
『初天神』と呼ばれ、大勢の参拝者で境内が賑わいます。

祭神・菅原道真の誕生日と命日、そして太宰府に左遷された日にちにちなんで毎月25日に開催される『天神さん』。
市では、骨董品や古着などが所狭しと置かれ、掘り出し物を買おうと大勢の人で賑わいます。
天神さんについては、『月刊京都2月号』で触れられていますので本誌を手に取って天神さんに行った気分に
なるのも楽しいと思います。

梅の名所として全国的にも有名な北野天満宮ですが、境内には50種、1500本もの梅の木が植えられいます。
一部の梅の花がほころび、参拝に訪れた方はひと足早い春の訪れの香りを楽しんでいます。
小さなお子さんが、お父さんに抱きかかえられて花の近くまで顔を寄せて「お花の匂いがするっ!」と嬉しそうに
言っている光景。
とても微笑ましく、心温まり、その可愛らしさにこちらまでつい笑顔になります。

今回は、北野天満宮に参拝された方は、必ず目にしているこちらのお店のお菓子をご紹介します。
そのお店は今出川通りから北野天満宮・一の鳥居を見て右手すぐにあります。
北野天満宮にちなんで販売されている『北野梅林』という代表銘菓。
口いっぱいに広がる甘酸っぱさとほんのり香る梅の香りが印象的なお菓子です。

そのお店が今の時期に販売しているお菓子がこちらです。
境内に咲きはじめている寒紅梅に雪が降り積もった情景を表現しているこなし製の『梅の雪』
という銘のお菓子です。
雪に見立てた氷餅が、大寒となりさらに厳しくなった寒さを心地よく感じさせてくれると共に、この寒さの先に
待っている春を感じさせてくれます。

1月28日より北野天満宮の梅苑の公開がいよいよ始まります。
梅苑で、お菓子屋で梅を楽しんでみてはいかがでしょうか。
菓銘梅の雪
店名船屋秋月(北野店)
住所京都市上京区馬喰町898
電話(075)464-2618
2017
21

節分

如月となり、様々な寺社の境内で『鬼は外ぉ~福は内ぃ~』と掛け声が聞こえてくる時期となりました。

今年は2月3日が『立春』。
立春の一日前より主要な寺社では、節分祭(節分会)が始まり、2月3日には、多くの寺社で節分祭が執り行われます。

京都では、表鬼門にあたる『吉田神社』、そして、裏鬼門にあたる『壬生寺』が特に有名で多くの参拝者が
訪れますが、その他にも京都の節分祭は多種多様です。
京都で行われる年中行事の中で子供からお年寄りまで楽しめる最も楽しい行事と言っても過言ではないのでは
ないでしょうか。

平安時代の鬼祓い神事を伝える『追儺式(ついなしき)』を行う寺社もあれば、現代的に音楽と光を交えて
鬼祓いをする寺社もあります。
鬼祓いの仕方も寺社により様々。
その違いを見るのも楽しみ方の一つだと思います。

そして、京都らしく、華やかに芸舞妓さんが豆まきを行う八坂神社。
観光客にとっては、華やかな京都を感じるには、またとない機会となることでしょう。

さて、節分の主役である鬼。
鬼の独特の風姿には理由があります。
陰陽五行では鬼の出入りする方角は北東(鬼門)とされています。
北東は丑寅(うしとら)の方角となり、そこから鬼の風姿は、頭には角があり、虎の縞模様のパンツを
履いているようになったと言われています。

また、鬼の色にも理由があり、五蓋(ごがい)からきているそうです。
五蓋とは、仏教における瞑想修行を邪魔する五つの煩悩のことです。
赤鬼は欲深く、青鬼は怒りっぽく、緑鬼は怠け者、黒鬼は疑い深く、黄鬼は甘え者。

今回は、その中から誰もが身近に感じる、よく深い赤鬼を表現したお菓子のご紹介です。
練切りで作られた角がとても可愛らしい、きんとん製のお菓子です。
こちらのお菓子を召し上がって鬼祓いをしてみてはいかがでしょうか。
菓銘節分
店名亀屋光洋
住所京都市左京区一乗寺払殿町17-12
電話(075)711-3764
2017
28

うぐひす

節分が終わり暦の上では春となりました。
明日、2月9日は七十二候では、『黄鴬睍睆(うぐいすなく)』となります。

「ホーホケキョ」と鶯が春の到来を告げるように鳴く頃です。
この時期、多くの和菓子屋では、『うぐいす餅』が販売されています。
京都の1月の代表的な和菓子が『花びら餅』であり、2月の代表的な和菓子が『うぐいす餅』です。

今回は、その『うぐいす餅』のご紹介です。
うぐいす餅は一般的には、求肥で餡を包み左右に引っ張り、端を少しすぼめて鶯の形にして、
鶯の羽色に似せる為に、青大豆きな粉をまぶしたものです。

この私たちに馴染みのある『うぐいす餅』の名付け親は京都に縁の深いあの人物です。
天正年間(1580年代)、奈良の大和郡山にあった郡山城の城主・豊臣秀長が兄の秀吉を招いて茶会を開きました。
その茶会に献上されたのが、現在のうぐいす餅のような形だったそうです。
そのお菓子を大変気に入った秀吉は、形が鶯に似ていることから『うぐいす餅』と名付けたそうです。
このような身近なお菓子の名付け親が秀吉だったとは意外ですね。

その秀吉が栄華を極めた御殿『聚楽第』。
その一文字が店名に入っているこちらの店で二月下旬まで販売されている『うぐいす餅』には、
『うぐひす』という銘が付けられています。

一般的な求肥ではなく、外郎生地で作られています。
そして、今回のお菓子は、その外郎生地ではなく、味噌餡を包んだ羽二重製の『うぐいす餅』を特別に作っていただきました。

いずれのお菓子も春告鳥の異名をもつ鶯のように、春を感じることができます。
菓銘うぐひす
店名聚洸
住所京都市上京区大宮寺之内上ル
電話(075)431-2800
2017
215

つばき餅

2月も半ばとなり、城南宮のしだれ梅の開花が始まってきました。
2月18日からは、毎年恒例の『しだれ梅と椿まつり』が始まります。

神苑入口を入って直ぐに広がる『春の山』と名付けられているエリアに植えられている150本ものしだれ梅。
近年は、この時期になると、平日、休日を問わずに大勢の参拝者が訪れる人気観光スポットになってきました。
満開の時期には、香しく咲く梅の甘い香りが周辺に立ち込めて、訪れる人々からは感嘆の声が上がります。
今年も、きっと大勢の人々を楽しませてくれることでしょう。

そして、こちらの庭園には、25品種以上、約300本もの椿が植えられています。
訪れる人々のほとんどがしだれ梅を目当にしてお越しになられますが、椿の花も多くの品種がしだれ梅と共に
見頃を迎えますので楽しんでいただけることだと思います。
華やかに咲いているしだれ梅とは対照的に控えめに咲いている椿。

その椿にちなんだお菓子を今回はご紹介させていただきます。
植物の葉で包んだお菓子といえば、真っ先に思い出されるのが、桜餅、かしわ餅ではないでしょうか。
椿餅を思い出される方は茶道の経験がある方なのかもしれません。
一般的には、あまり馴染みのないお菓子かもしれませんが、『椿餅』は日本最古の餅菓子といわれています。
源氏物語『第34帖・若菜上』の中で、
『椿い餅、梨、柑子やうのものども、様々に筥の蓋どもにとりまぜつつあるを、若きひとびと、そぼれとり食ふ』
と若い人々が蹴鞠のあとの宴で食べる場面が登場します。
その当時には砂糖は無く、甘葛(あまづら)というツタの汁を煮詰めたものでほんのりと甘味をつけていたようです。

艶やかな厚手の葉が特徴的な椿。
その椿の名の由来は、『厚葉木(あつばき)』または『艶葉木(つやばき)』からきたとされています。
名の由来にもなった葉を使ったお菓子は、葉を愛でるお菓子でもあります。
この機会にじっくりと葉を愛でてみると咲いている椿の花が少し違うように感じるかもしれませんね。
菓銘つばき餅
店名船屋秋月
住所京都市右京区宇多野福王子町13-3
電話(075)463-2624
2017
222

北野の春

梅の香しい匂いに春を感じ、お世辞にも上手いとは言えない音程を外した鶯の鳴き声が何処からともなく
聞こえてくる京都の2月。
北野天満宮では、祭神の菅原道真の命日である2月25日に梅を愛した道真を偲んで『梅花祭』が行われます。

現在、境内に植えられている多くの梅がほころび、梅花祭が行われる当日には、梅の甘い香りが立ち込めている中で
上七軒の芸舞妓さん達の奉仕による華やかな野点が行われることになりそうです。
近年、境内の整備が進められており、紅梅殿前の庭園、御手洗川が昨年の夏に完成して初めて迎える梅花祭です。
今年はどのような梅花祭になるのかが今から楽しみです。

今回は、その北野天満宮から東へ徒歩15分ほどのところで店を構えているお菓子屋さんのお菓子をご紹介させて
いただきます。
紅白梅をイメージした色合いのこなしに入っている牛と梅の模様。
春の気配を感じるお菓子です。
わかる方は、説明がなくても、その意匠を見るだけで北野天満宮を想像してしまうのではないでしょうか。
お菓子本来の楽しみ方を感じる素敵なお菓子です。
北野天満宮へ参拝に行かれた際には、散策がてら立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
菓銘北野の春
店名千本玉壽軒
住所京都市上京区千本通今出川上ル
電話(075)461-0796
2017
31

雛の宴

昨年の3月1日より始まりました【月刊京都版 きょうの『和菓子の玉手箱』】は、皆様のおかげをもちまして
一年を迎えました。
和菓子職人さんの手仕事から作り出される素敵な京都の和菓子。
その和菓子から京都の四季を感じていただければという思いから続けているこちらの企画です。

春から始まり、夏、秋、冬、そして季節は巡り、また春へ。
過ぎゆく季節に寂しさを感じつつ、迎える季節に胸を躍らせて一年が経ちました。
和菓子から季節の移ろいをより多くの方々と共に感じられることを願って二年目の【月刊京都版 きょうの
『和菓子の玉手箱』】の始まりです。

北野天満宮の梅花祭を終えて、京都ではいよいよ、本格的な春の到来を感じるようになってきました。
一条戻橋のたもとに植えられている早咲きで有名な河津桜の蕾が膨らみ、数輪ですが可憐な花を咲かせています。
2日後の3月3日は五節句のひとつ『上巳の節句』、雛祭りとして親しまれている節句です。
当日は京都各所で京都らしい華やかな年中行事が行われます。

ただ今、向日市を通る西国街道沿いでは、3月5日(日)まで『西国街道ひな人形めぐり』が行われています。
約30軒の旧家や商家などで、江戸から昭和初期にかけての貴重なひな人形が飾られています。

中でも国登録有形文化財に登録されている中小路家住宅では、数多くの雛段飾りや御殿雛、
そしてつるし雛や流し雛などが飾られていて、ひな人形の素晴らしさに触れることができる貴重な機会と
なっています。
是非、機会があれば時間に余裕を持って西国街道をのんびりと散歩しながら、ひな人形めぐりをしてみては
いかがでしょうか。

今回のお菓子は、ひな人形のような素敵な女性の和菓子職人さんが作ったお菓子をご紹介します。
一目見て思わず「可愛い!」と叫んでしまいそうな外郎とこなしで模ったお雛様の意匠。
こちらのお店らしい雰囲気と色づかいのお菓子です。
どのお菓子も店頭で販売するお菓子は、できるだけ初めての方にも分かりやすく親しみがわくような意匠を
心がけているそうです。

今回ご紹介する、こちらのお菓子が生まれたのは約五年前。
大正生まれのお店の工場長さんだった方が考案されたお菓子だそうです。
その工場長さんから受け継ぎ、日々、さまざまな方からいただく意見は勉強になると共に励みにもなるという
女性の職人さん。
お菓子のことについて語られている時の生き生きとした目と笑顔がとても印象的でした。
これからも素晴らしいお菓子を私たちに提供してくれることをとても楽しみにしています。
こちらのお菓子でひな祭りをすれば、笑顔が絶えない節句となること間違いなしですね。
菓銘雛の宴
店名長久堂
住所京都市北区上賀茂畔勝町97-3
電話(075)712-4405
2017
31

節分

如月となり、様々な寺社の境内で『鬼は外ぉ~福は内ぃ~』と掛け声が聞こえてくる時期となりました。

今年は2月3日が『立春』。
立春の一日前より主要な寺社では、節分祭(節分会)が始まり、2月3日には、多くの寺社で節分祭が執り行われます。

京都では、表鬼門にあたる『吉田神社』、そして、裏鬼門にあたる『壬生寺』が特に有名で多くの参拝者が
訪れますが、その他にも京都の節分祭は多種多様です。
京都で行われる年中行事の中で子供からお年寄りまで楽しめる最も楽しい行事と言っても過言ではないのでは
ないでしょうか。

平安時代の鬼祓い神事を伝える『追儺式(ついなしき)』を行う寺社もあれば、現代的に音楽と光を交えて
鬼祓いをする寺社もあります。
鬼祓いの仕方も寺社により様々。
その違いを見るのも楽しみ方の一つだと思います。

そして、京都らしく、華やかに芸舞妓さんが豆まきを行う八坂神社。
観光客にとっては、華やかな京都を感じるには、またとない機会となることでしょう。

さて、節分の主役である鬼。
鬼の独特の風姿には理由があります。
陰陽五行では鬼の出入りする方角は北東(鬼門)とされています。
北東は丑寅(うしとら)の方角となり、そこから鬼の風姿は、頭には角があり、虎の縞模様のパンツを
履いているようになったと言われています。

また、鬼の色にも理由があり、五蓋(ごがい)からきているそうです。
五蓋とは、仏教における瞑想修行を邪魔する五つの煩悩のことです。
赤鬼は欲深く、青鬼は怒りっぽく、緑鬼は怠け者、黒鬼は疑い深く、黄鬼は甘え者。

今回は、その中から誰もが身近に感じる、よく深い赤鬼を表現したお菓子のご紹介です。
練切りで作られた角がとても可愛らしい、きんとん製のお菓子です。
こちらのお菓子を召し上がって鬼祓いをしてみてはいかがでしょうか。
菓銘節分
店名亀屋光洋
住所京都市左京区一乗寺払殿町17-12
電話(075)711-3764
2017
38

桃の花

二十四節気・雨水(うすい)から啓蟄(けいちつ)となり、一雨ごとに暖かくなっていくこの時期。
冬ごもりをしていた虫たちもこの暖かさに誘われて穴から姿を見せてくれることでしょう。
七十二候では、今週末3月10日に『桃始笑(ももはじめてさく)』となります。

京都市内で桃の名所といえば、まず真っ先に挙げられるのが京都御苑ではないでしょうか。
烏丸通りから蛤御門をくぐって間もなく右手に桃の木が約70本植えられている桃林が広がっています。
花屋では、綺麗に花が咲いている桃を見かけますが、こちら桃林に植えられている桃は、まだ蕾がようやく
大きく膨らんできたところで開花までは、あともう少しかかりそうです。
例年3月の中旬ごろより咲き始め、桜と共に4月の初旬いっぱいまで楽しむことができます。

その桃ですが、歴史は古く弥生時代に中国から日本に渡ってきたそうです。
中国では、桃は魔除けや不老長寿の実とされていました。
日本でも魔除けの力があるとされ、鬼門に桃の木を植えたり、桃をモチーフにした瓦を使用している様子を
見かけることがあります。
そして、桃といえば日本昔話でもお馴染みの桃太郎。
ピンときた方は、もうお分かりだと思いますが、桃太郎が鬼退治をする物語も一説によればそこからきていると
言われています。

今回は、その桃にちなんだお菓子をご紹介させていただきます。
京都御苑の北西角近くにある地下鉄・今出川駅の隣駅となる鞍馬口駅から徒歩5分。
こちらのお店は、夏場に販売される錦玉製の『金魚鉢』という涼し気なお菓子が有名ですが、その他のお菓子も
とても印象的です。
桃の花を模った外郎で作られたお菓子からは、本物にも負けないくらい神秘的な雰囲気を感じとることができます。
暖かくなった日には、京都御苑の桃や桜の下でお菓子を食べながらのんびりと過ごすひと時がおススメです。
家族連れで、カップルで、友達同士でいかがでしょうか。
菓銘桃の花
店名幸楽屋
住所京都市北区鞍馬口通烏丸東入ル新御霊口町285-59
電話(075)231-3416
2017
315

嵯峨桜

花の便りが届くようになり、本格的な春の訪れにまた一歩近づいてきました。
嵐山渡月橋から一路北へ。
左手に天龍寺、竹林の道への入り口を見てJR嵯峨野線を越えるとその先には、歴史を感じる大きな仁王門が
見えてきます。
江戸時代に建てられた清凉寺の仁王門です。
その仁王門をくぐると広い境内には大きなご本堂が建ち、その左手奥には美しい山々を見ることができます。

素晴らしい景色と開放感に両手を上げて深呼吸。
色々なことを忘れて心機一転できてしまう寺院です。
現在、境内に植えられている梅の花が見ごろを過ぎ、その代わりに早咲きの河津桜が咲き始めてきました。
いよいよ本格的な春の到来です。

本日3月15日は、こちら清凉寺で『お松明式』と『嵯峨大念仏狂言』が行われます。
『お松明式』は、京都の春を告げる行事として『五山送り火』と『鞍馬の火祭』とともに京都三大火祭と
されています。
境内に組まれた3本の約7mの松明に火を投じて、松明の燃え盛る火の勢いで今年の農作物の豊凶を占います。
夜空を赤く染める火の勢いと空に巻き上がる火の粉。
瞬く間に松明が燃え尽きる光景は圧巻そのものです。

また、『嵯峨大念仏狂言』も壬生寺、千本ゑんま堂とともに京の三大念仏狂言とされています。
毎年、境内の狂言堂で行われますが、今年は狂言堂の改修工事の為、ご本堂で行われます。
今年の演目は、 『釈迦如来』、『橋弁慶』、『土蜘蛛』が予定されているそうです。
『嵯峨大念仏狂言』は15時30分から、また、『お松明式』は20時からそれぞれ始まる予定になっております。
お時間の許す方は、ぜひ出がけてみてはいかがでしょうか。

今回のお菓子は、その清凉寺の門前にあります和菓子屋さんのお菓子をご紹介させていただきます。
こし餡が入ったお饅頭に塩漬けされた桜の花をあしらった可愛らしいお菓子です。
ほのかに香る桜の香りから、春を感じ、つい笑顔になります。
清凉寺へお出かけの際には、ぜひお土産としてみなさんに春のお裾分けをしてみてはいかがでしょうか。
菓銘嵯峨桜
店名米満軒
住所京都市右京区嵯峨釈迦堂大門町28
電話(075)861-0803
2017
322

疏水の桜

窓越しに射し込む朝陽で目が覚めて一日が始まる午前6時過ぎ。
その優しい陽射しから春を感じます。
朝の散歩道。
肌寒い気温の中、朝の陽射しを浴びながら過ごすひと時がとても心地よく、これから迎える桜シーズンに期待が
高まり胸が膨らみます。
京都には多くの散歩道があります。

ただ今、書店にて販売されている月刊京都・4月号の特集は、『桜名所を歩こう』です。
その本誌で紹介されている鴨川、哲学の道や山科疏水などの『桜の道』。
のんびりと歩きながら桜が演出してくれる素晴らしい風景を見ることができるお気に入りの道ばかり。

その中でも、菜の花と桜が競演して春らしい風景を見ることができる山科疏水は私のオススメです。
京阪四ノ宮駅または、山科駅から徒歩10分ほどで山科疏水に着きます。
そこから日ノ岡まで約4キロ続く疏水沿いには、山桜、ソメイヨシノをはじめとする四季折々の草花が咲き、
市民の散歩道として親しまれています。
その中でも毘沙門堂の参道『毘沙門道』と疏水が交差する安朱橋付近の東側疏水沿いには、地元住民の手によって
菜の花が植えられています。
これからの時期、桜の淡い薄紅色と菜の花の鮮やかな黄色のコントラストが疏水沿いに彩りを添えます。
現在のところ、菜の花はわずかに咲き始めたところで、桜の蕾はまだ硬く、開花まではまだ時間がかかりそうです。

今回は、まだ咲かぬ疏水の桜に想いを馳せて、京阪四ノ宮駅前通りにお店を構えているお菓子屋さんのお菓子を
ご紹介させていただきます。
お菓子屋さんで様々な桜をモチーフにした意匠のお菓子を見かけるようになってきました。
こちらのお菓子もその中の一つです。
降り注ぐ、やわらかい春の陽射しを浴びて咲いている桜のように感じる優しい色合いのお菓子。
『ぼかし』という手法で薄紅色の練りきりと白色の練りきりが織りなす日本らしい美意識を感じることができます。
桜が見ごろとなる頃はもちろんのことですが、桜の蕾が大きく膨らむこれからの時期、一足早く桜を感じてみては
いかがでしょうか。
菓銘疏水の桜
店名亀屋
住所京都市山科区四ノ宮堂ノ後町17
電話(075)581-0016
2017
329

花くれない

鴨川沿いや祇園白川沿いに植えられている柳が芽吹きはじめています。
春の日差しを浴びて川面がキラキラと輝く光景を背景に芽吹いたばかりの柳の葉が心地よい風になびく春らしい風景
を目にするようになってきました。

川沿いに植えられている柳は、見慣れた風景ですが、その理由は、柳は湿気を好み、根が丈夫で深く根付くから
だそうです。
そのことから昔は、川岸に植えて水害によって川岸が崩れることを未然に防いでいたそうです。
今では土木工事の技術が進み、柳に頼る必要もなくなってきたのかもしれませんが、先人たちの知恵は本当に
素晴らしいものです。

景観だけでなく、人々の暮らしを守ってきた柳、そして桜を題材にしたきんとん製のお菓子を今回は、ご紹介
させていただきます。
一月から二月にかけて、紅白梅の花を表現した『此花(このはな)』や『咲き分け』という銘が付いた紅白の
きんとん製の初春を代表するお菓子があります。
季節が移ろい、今の京都市内のお菓子屋さんでは、芽吹いた柳を表現した緑色と桜の花を表現した桜色を
色分けしたきんとん製のお菓子を見かけます。
素性法師が詠んだ【見渡せば 柳桜を こきまぜて みやこぞ春の 錦なりける (古今和歌集)】が題材と
なったお菓子です。
一般的には『都の春』という銘が付けられます。

そして、もう一つ。
中国の詩人・蘇軾 (そしょく)が詠んだ【柳緑花紅真面目(やなぎはみどり はなはくれない しんめんもく)】
という詩があります。
日本では、『柳緑花紅(りゅうりょくかこう)』という四字熟語となり、人の手を加えていない自然のままの美しさや
春の美しい景色の形容として使われています。
そこから付けられた銘のお菓子です。
京都の春を感じながら召し上がっていただきたい、京都の春に欠かすことができないお菓子です。
菓銘花くれない
店名源水
住所京都市中京区油小路通二条下ル
電話(075)211-0379
2017
45

『初花』『桜流し』『春かすみ』『花の宴』『花筏』『夜桜』『ひとひら』

先週、待ちに待った桜の開花宣言が出された京都市内。
昨年より8日遅い開花宣言となりました。
昨年の今頃は、京都御苑・近衛邸跡の糸桜や平野神社の魁桜などの早咲きの桜は見頃を終えていましたが、
今年は見頃を迎え大勢の花見客で賑わっています。
これからはソメイヨシノ、八重紅枝垂れ桜、そして里桜などが順番に咲き、4月末くらいまで桜を楽しめる
日々がしばらく続きます。

桜にまつわる言葉をみなさんはどれくらいご存知でしょうか。
桜月、桜雨、桜人、花筏、ひとひら、桜雲などなど。
いずれも響きがとても綺麗で知れば知るほど言葉のもっている美しさ、楽しさを感じる事ができます。
今回は、本格的な桜シーズンを目前に桜を感じられる素敵なお菓子たちをご紹介させていただきます。
まずは、以下に挙げる言葉が写真に写っているお菓子の名前です。
『初花』、『桜流し』、『春かすみ』、『花の宴』、『花筏』、『夜桜』、『ひとひら』の計七つです。

さて、問題です。
どのお菓子がどの名前でしょうか。
言葉のもっている意味を考えてみるとそんなに難しくはないと思いますので挑戦してみてくださいね。

『初花』は、その季節に初めて咲く花を意味します。
華やかさではなく、ひっそりと人知れずに咲いている雰囲気を感じるお菓子です。

『桜流し』は、雨で桜の花びらが散り、流されていく様子を意味します。
花びらが流れていくとともに季節の流れも感じられるお菓子です。

『春かすみ』は、春に霞によって山々などの遠くの景色が見えにくくなることを意味します。
ぼんやりとした春らしい、やわらかさを感じるお菓子です。

『花の宴』は、桜の花を鑑賞しながら催す宴を意味します。
華やかな宴を想像してしまう華やかさを感じるお菓子です。

『花筏』は、水面に散った花びらが吹き寄せられて流れていく様子を意味します。
水面が桜色に染まり、散ってなお美しい情景が表現されているお菓子です。

『夜桜』は、夜の花見を意味します。
闇夜に溶け込んだ桜を月光が照らしている情景はまさに神秘的。
もう、どのお菓子かおわかりですね。

『ひとひら』は、花びらのことを意味します。
私が大好きな言葉の一つです。
ひとひらを漢字では『一片』と書きますが、やはり平仮名の柔らかい雰囲気がぴったりと合う言葉です。
平仮名の柔らかさ、しなやかさのような雰囲気を感じるお菓子です。

正解は、『初花』が一番手前にある白い羽二重製のお菓子です。
そこから時計回りに『桜流し』、『春かすみ』、『花の宴』、『花筏』、『夜桜』と並び、そして真ん中に
『ひとひら』のお菓子です。
さて、みなさんはいくつ正解できたでしょうか。
桜の下で様々なお菓子を持ち寄ってヒントを出して、想像を膨らませて菓銘を当てあいながらひと時を
過ごすなんていかがでしょうか。
菓銘『初花』『桜流し』『春かすみ』『花の宴』『花筏』『夜桜』『ひとひら』
店名聚洸
住所京都市上京区大宮寺之内上ル
電話(075)431-2800
2017
412

ひとしらべ

本格的な桜シーズンをようやく迎えた先週の京都。
しかしながら、雨の週末となりました。
一部では花筏や桜吹雪となっているところもあります。

これからは遅咲きの桜が咲き、もみじが芽吹き、より一層、春らしい色が街の至るところに溢れ、華やいだ雰囲気と
なることでしょう。
ニュースでは、毎日のように京都の桜風景がテレビに映し出され、幻想的な風景に誘われるかのように知らず知らず
のうちに早起きをして桜を求めて出かける日々です。

ニュースで知ったのですが、ここ数年、桜シーズンには紅葉シーズンを超える人数の観光客が京都に来ている
そうです。
そのことを意外に感じたのは私だけでしょうか。
今は、華やいだ京都が人気なんですね。

華やいだ京都といえば、4月1日より始まっている祇園に春を告げる『都をどり』。
毎年、舞妓さんをモデルにした春らしい素敵な日本画を使用したポスターが祇園界隈に貼られ、訪れた人々は
そのポスターから春を感じます。
今年のポスターには、凛とした表情で鼓を打っている舞妓さんの様子が描かれています。

今回は、そのポスターにちなんで鼓の意匠のお菓子をご紹介します。
この時期らしい桜色の生地に鼓の皮の焼印を施した薯蕷饅頭。
そこに締めたり緩めたりすることで音色を変える朱色の調緒(しらべお)を飾っています。
調緒(しらべお)のことを『調べ』とも呼びますが、そこから付けられた菓銘『ひとしらべ』です。
見ているだけで幸せになれそうなお菓子。
こちらのお菓子から春の音色を感じてみてはいかがでしょうか。
菓銘ひとしらべ
店名長久堂
住所京都市北区上賀茂畔勝町97-3
電話(075)712-4405
2017
419

花筏

川端康成の小説『古都』の中に出てくる「御室の桜も一目見たら、春の義理が済んだようなものや」という台詞。
先週末に仁和寺の御室桜が満開を迎えました。
桜雲越しに見える五重塔。
京都の桜シーズンのフィナーレを飾るに相応しい光景です。

桜の名所を訪れてみると、数週間前の賑わいが嘘のような静けさ。
花の美しさだけではなく、散りゆく姿も美しい桜。
散りゆく姿を存分に楽しめる時期です。

今回は、桜が散るこの時期によく耳にする『花筏』が菓銘となっているお菓子のご紹介です。
花筏とは、桜の花びらが水に浮かんで流れて行く様子のことです。
ひらひらと水面に舞い落ちる花びら。
そして、花びらは水の流れにまかせて筏のように。
水面と桜をイメージした色合いのこなしに花びらの型押し。
みなさんは、どのような情景を思い描くことでしょうか。
菓銘花筏
店名千本玉壽軒
住所京都市上京区千本通今出川上ル
電話(075)461-0796
2017
426

山吹

京都市内を移動していると芽吹いたばかりの木々の鮮やかな若葉色が目に飛び込んでくるようになってきました。
この時期、木々たちが見せてくれる優しい表情に癒され、ついつい時間を忘れて心ゆくまで静かに過ごして
しまいます。
新緑の季節の到来です。
これからは、そよ風に吹かれ、木漏れ日を浴びながら気持ちよく過ごせる日々がやってきます。

そして、数多くの花たちが咲き、私たちの目を楽しませてくれます。
先日23日に晴天の下、神幸祭が執り行われた松尾大社では、山吹の花が見頃を迎えています。
山吹は、昨年もこちらでご紹介をさせていただきましたが、やはりこの時期に欠かせない花です。
現在、松尾大社では、楼門の改修工事が行われている為、一部では例年のような幻想的な光景を見ることができない
場所もありますが、約3000株もの山吹が花を咲かせて境内を埋め尽くす光景は、やはり圧巻のひと言につきます。

今回のお菓子は、山吹をモチーフにしたお菓子のご紹介です。
よもぎが入った求肥を葉に、いら粉を花に見立てたお菓子です。
見る方によって、思い思いの山吹が想像できるように抽象的な意匠に仕上げられてる晩春の京都を感じる
お菓子です。
菓銘山吹
店名亀屋重久
住所京都市右京区谷口梅津間町
電話(075)461-7365
2017
53

もののふ

葵祭の皐月となりました。
京都では5月1日に『競馬会足汰式(くらべまえあしぞろえしき)』が行われ、その後、『流鏑馬神事』、
『斎王代禊の儀』、『歩射神事』、『賀茂競馬』と葵祭の前儀が続きます。
大型連休は、京都で葵祭の前儀を見て過ごすという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

5月5日、二十四節気では『立夏』となり、夏のはじまりとなります。
そして、五節句の一つである『端午の節句』でもあります。

今では男の子の節句となっていますが、その昔は『菖蒲の節句』と呼ばれ、邪気を払う為に、菖蒲を浸したお酒や
煎じたものを飲んだりしていたそうです。
江戸時代になり、『菖蒲の節句』が『尚武の節句』とされ、男の子の誕生と成長を祝う節句へと変貌を遂げていき
ました。

端午の節句に欠かせない鯉のぼり、そして鎧や兜。
最近では、玄関先で大きな鯉のぼりが気持ちよさそうに泳いでいる姿を見かけることが少なくなってきました。
その風景を見かけた時には、つい幼少の頃を懐かしむ気持ちがこみ上げてきます。

今回のお菓子は、端午の節句にちなんだお菓子のご紹介です。
『武士』と書き、その読みは『もののふ』。
その『もののふ』を菓銘にした、外郎で兜を表現したお菓子です。
勇ましい雰囲気があるお菓子をひらがなの菓銘にすることで少し和らいだ雰囲気に感じるから不思議です。
『端午の節句』には、ぜひこちらのお菓子で祝ってくださいね。
菓銘もののふ
店名長久堂
住所京都市北区上賀茂畔勝町97-3
電話(075)712-4405
2017
510

水辺

大型連休に新緑、そして、躑躅、藤の花を楽しみ、初夏を存分に感じることができた京都市内。
現在は、上御霊神社や平野神社などで、杜若、花菖蒲に草姿、花とも似ているアヤメ科の一初(イチハツ)が咲いて
いる様子を見かけることができます。

アヤメは水辺に咲いているように思われがちですが、実際には陸地に咲く花。
その初夏を彩る花たちは、次第に水辺を彩りはじめます。
これからの時期、水辺には『杜若(カキツバタ)』が咲き、その後『花菖蒲(ハナショウブ)』の花が続きます。
花菖蒲が咲く頃には、梅雨となっていることでしょうね。

もちろん、この時期には、水辺を彩る花たちは、お菓子の主役となります。
今回は、これからの時期に主役になる水辺の花たちのお菓子をご紹介させていただきます。
茶巾絞りという代表的な手法で作られた、こなし製のお菓子です。

杜若や花菖蒲に似せようとすると全体を鮮やかな紫みの青にしてしまいがちですが、あえて白地に差し色を入れる
ことだけにとどめて、見る方の想像力をかき立てています。
みなさんも、こちらのお菓子からそれぞれの水辺を彩る花を想像してみてくださいね。
菓銘水辺
店名長生堂
住所京都市左京区下鴨上川原町22-1
電話(075)712-0677
2017
517

うの花きんとん

先日、京都では晴天の下、葵祭が執り行われました。
平安装束を身につけた約500人の行列が優雅に進む様子は王朝絵巻そのもの。
その素晴らしい光景に今年も見惚れてしまいました。

葵祭が終わり、季節がまた一つ進んだように感じます。
新緑に映える白い花。
夏の訪れを知らせてくれる空木(ウツギ)が見頃となっています。
空木は、古くから『卯の花』と呼ばれ親しまれてきました。
古来より、真っ白な花が咲き乱れる様子に多くの歌人が魅了され、数多くの和歌に『卯の花』が詠まれています。

『卯の花の咲きぬるときは しろたへの 波もてゆへる 垣根とぞ見る(太宰大貳重家)』

新古今和歌集に収められている卯の花が咲きほこる情景を詠んだ歌です。
今も昔も変わらぬ、夏の始まりを感じられる情景は、私たちの身近にあるようです。

今回は、その卯の花にちなんだお菓子です。
新緑色に染められたそぼろ。
その上には花に見立てた白色。
たくさんの花をあしらうことなく、あくまでも上品にあしらうところにお店の個性を感じます。
お菓子から夏の始まりを感じてください。
菓銘うの花きんとん
店名紫野源水
住所京都市北区小山西大野町78-1
電話(075)451-8857
2017
524

落とし文

季節は立夏から小満へと移ろい、また一つ本格的な夏に近づきました。
京都市内を歩いていると玄関先で赤やピンク、黄色などの様々な色の華やかに咲き誇る薔薇を見かけます。
綺麗な薔薇の花を見ると、愛情を注いで一年間かけて育ててこられたんだろうと思い、鑑賞させていただいて
います。

お菓子では薔薇を模ったものが販売されたりする時期ですが、その他にもこの時期によく見かける日本らしい
お菓子があります。
それが『落とし文』というお菓子です。
落とし文は、初夏を表す季語としても使われます。

丸めた餡を葉がくるりと巻いたような意匠。
その葉の上には、白い粒のような餡が飾られています。
こちらのお菓子は、昆虫のオトシブミが卵を産んでその葉をくるくると巻いて地面に落としたものを表現して
います。
その昔、密かに想う人に宛てた手紙を他人にわからないようにくるくると巻いて道端に落として渡したそうです。
その手紙を、落し文と呼んでいた、というのが、昆虫のオトシブミの由来だそうです。

手紙で気持ちを伝えることが少なくなった現代人にとっては、理解しづらいかもしれませんが、なんともロマン
チックな風習です。
菓銘落とし文
店名船屋秋月
住所京都市右京区宇多野福王子町13-3
電話(075)463-2624
2017
531

水しぶき

例年より雨が少なく、青空の印象だけが残った五月となりました。
明日からは六月。
夜が明けるのも早くなってきました。

四時過ぎに東の空が明るくなりはじめる京都市内。
早朝の清水寺。
朝日を浴びた京都市街を気軽に一望できる世界的にも有名な寺院です。
ただ今、『清水の舞台』として親しまれている御本堂の檜皮葺き屋根の葺き替え改修工事の為、見慣れている清水の
舞台の光景とは違い、御本堂を覆うように立派な足場が組まれています。
改修工事中の様子にがっかりされる方もいらっしゃいますが、50年ぶりに行われる珍しい工事です。
ある意味、足場が覆い囲まれた御本堂の様子は貴重な光景です。
この機会にぜひ見ていただき、文化財を未来永劫にわたって守っていくことの大変さ、素晴らしさを肌で感じていた
だければと思います。

参拝が始まる午前六時より少し前の清水寺・仁王門前。
観光客とは雰囲気が異なる、おじいちゃん、おばあちゃんが何処からともなく集まってこられ、大きな声で
「おはようございます!」と挨拶を交わす見慣れた光景です。
「あんた、昨日は見かけへんかったから病気してるんちゃうかと心配したで」
「ちょっと、孫のとこに行ってましてん」
と元気に日常の会話をされるおじいちゃん、おばあちゃんたち。
中には50年近く毎朝、お詣りに来られている方もいらっしゃいます。
元気の源は何かと尋ねてみると、「清水さんがあること」や「音羽の滝の水を毎朝飲むこと」などという答えが
返ってきます。
地元住民にとっては、とても大切な寺院であることを感じます。

清水寺境内・奥の院の崖下にある音羽の滝。
連日のように『延命水』や『黄金水』と呼ばれる霊水を求めて多くの参拝者が列をなしています。
音羽山より湧き出る清水が三筋の筧を通って、水しぶきをあげて流れ落ちている様子は涼し気でこれからの時期、
より一層多くの参拝者で賑わいそうです。
今回は涼し気な水しぶきを表現したお菓子のご紹介です。
水をイメージする色合いのこし餡を涼し気な道明寺羹で包んだお菓子です。
みぞれ羹とも言われる道明寺羹は、もっちりとした食感が特徴です。
もっちりとした食感のお菓子は、暑い時期に敬遠されがちですが、道明寺羹は見た目にも涼し気。
京都らしい蒸し暑い日がやってくるこれからの時期、ついつい食べたくなるお菓子です。
まだ、召し上がったことがない方は一度試してみてはいかがでしょうか。
菓銘水しぶき
店名松壽軒
住所京都市東山区松原通大和大路西入弓矢町19-12
電話(075)561-4030
2017
67

蛍の宮

紫陽花が街を彩る季節がやってきました。
京都市内では、少しずつ紫陽花の花が咲きはじめていますが、見頃はまだ少し先になりそうです。
これからは雨の季節に入りますが、雨に濡れた紫陽花を今年も存分に楽しみたいと思います。

ただ今、京都市内の疎水などの水辺では、夜になると蛍が優しい光を灯しています。
近年、地元住民の方々の努力のおかげで街中では気軽に蛍を楽しむことができるようになってきたエリアもあり、
蛍の光がより一層身近に感じられるようになってきました。

観光客に絶大な人気がある祇園白川。新橋通と白川南通の合流点近く、白川にかかる祇園巽橋からも蛍の灯りを
楽しむことが出来ます。
しかしながらお酒を飲む多くの方は、蛍の灯りに気づくことなくお店のネオンの灯りに誘われていきます。
お酒を飲まない私は、祇園巽橋に佇み、蛍の優しい灯りを見ながらそよ吹く夜風にあたりながら時を過ごします。

蛍の優しい灯りは、和菓子から感じる優しさと似ているように感じます。
今回のお菓子は、蛍にちなんだお菓子のご紹介です。
職人さんによりますと、こなしで表現した蛍を外郎でぼんやりと透かして情緒を出すように作られたそうです。

『蛍の宮』の菓銘は、源氏物語に登場する人物より名付けられました。
まさに『手のひらの幸せ』そのもののようなお菓子ですね。
幸せを感じることが出来るお菓子をみなさんもいかがでしょうか。
菓銘蛍の宮
店名長久堂
住所京都市北区上賀茂畔勝町97-3
電話(075)712-4405
2017
614

紫陽花

雨音の調べを聴きながら心地よく庭園を眺めることができる季節がやってきました。
先日、全国的に梅雨入りの発表がありましたが、京都市内では雨が少なく、本格的な梅雨空が待ち遠しく思える
くらいの天候が続いています。

京都市内を歩いていると道路傍に植えられている紫陽花の花が色とりどりに咲いている様子を見かけます。
その紫陽花たちも本格的な梅雨空を心待ちにしているのではないでしょうか。

今回は、この時期、多くのお店で見かける紫陽花をモチーフにしたお菓子をご紹介します。ご紹介させていただく
お店からほど近くにあります『辻児童公園』には、公園を取り囲むように様々な種類の紫陽花が植えられています。
職人さんによると今回のお菓子は、その公園に咲いている紫陽花を見て意匠を考えたそうです。

紫陽花には、やはり雨粒がとても似合います。

水を表現する手法の一つに錦玉羹の使用が挙げられます。
今回のお菓子は、さいの目に切った錦玉羹で餡を包み紫陽花を表現しています。
雨にしっとりと濡れた紫陽花が目に浮かんでくるこの時期ならではのお菓子です。
菓銘紫陽花
店名亀屋光洋
住所京都市左京区一乗寺払殿町17-12
電話(075)711-3764
2017
621

半夏生

色とりどりの紫陽花が街を彩る六月。
何処を訪れても可憐な紫陽花が出迎えてくれます。
六月も終盤へさしかかってきました。

紅枝垂れ桜の花で本格的な春の訪れを感じた四月。
躑躅の花が新緑の紅葉と競演した五月。
洛北岩倉にある妙満寺は四季の移ろいを感じることができる寺院です。
これからの時期、山門前の池の水面には睡蓮の花が咲き、緋鯉が睡蓮の花の周りを気持ちよさそうに泳ぐ光景を見る
ことができます。

そして、池の周囲ですくすくと育っている半夏生の葉。
爽やかな緑色の葉が少しずつ白くなってきました。
初夏になると、化粧をしたように白くなり、また緑色の葉に戻ります。
その様子から半化粧と呼ばれ、転じて半夏生となりました。
あと一週間もすれば、緑と白のコントラストが池を演出することでしょう。

今回は、半夏生をモチーフにしたお菓子をご紹介します。
京都では初夏を代表する馴染みのある草花ですが、半夏生にちなんだお菓子は、紫陽花のようにどこのお店でも販売
しているわけではなく、探すのに一苦労するお菓子です。

そのようなお菓子とこちらのお店で出会うことができます。
職人さんによると、緑色の葉が一部を残して真っ白になった半夏生は、とても美しく、その葉が再び緑色に戻る
様子は、とても儚さを感じるそうです。
緑色と白色の外郎(うるじ)生地のぼかしで表現した半夏生。
手のひらに乗せて愛でていると、夏の光景が目に浮かんできます。
お菓子から感じる涼感を皆さんも感じてみてください。
菓銘半夏生
店名長久堂
住所京都市北区上賀茂畔勝町97-3
電話(075)712-4405
2017
628

水無月

一年の半分が過ぎようとしている京都市内では、各神社で茅の輪を見かけるようになってきました。
6月30日は、京都で暮らす人々にとっては元旦の次に欠かせない特別な一日。
この半年の罪のけがれを祓い、残り半年の無病息災を祈願する神事『夏越祓(なごしのはらえ)』が各神社で行われ
ます。
神社境内に飾られた茅(ちがや)を束ねて作られた大きな輪を『水無月の夏越しの祓する人はちとせの命のぶと
いうなり』と唱えながらくぐる『茅の輪くぐり』を行います。

茅の輪をくぐり抜けると、夏の疫病や災厄から免れるといわれています。
その『夏越祓』にいただくのが『水無月』という和菓子です。

京都の小学校では、給食に水無月が出てきたり、水無月作りを体験したり、小さい頃より水無月と関わりを持つ
教育が行われているそうです。
京都で暮らす人々にとって水無月は特別なお菓子であることがうかがえます。
そのような想いを持っている人々に提供する和菓子屋さんも特別な想いを持って水無月を作るのは必然なのかも
しれません。

京都御苑南西角からほど近くに店を構えるこちらのお店。
松露と呼ばれる餡にすり蜜をかけたお菓子が有名なお店です。
そのお店が6月28日から6月30日まで販売される水無月は、外観からもお味からもお店のこだわりを感じることが
できる素晴らしいお菓子です。
よく見かける水無月に比べて薄く、大きく三角に作られた外郎生地の上には、まるで宝石を敷き詰めたかのような
輝きを見せる大納言小豆。
より小豆の食感を大切にしたいお店の想いが感じられる外郎生地の厚みです。
その小豆は、すり蜜をかける松露で使用する時と同様に甘さ控えめ。
そして、外郎生地には、吉野産の本葛が使用され何とも言えない葛らしい爽やかな歯切れの良い食感に仕上げられ
ています。
その爽やかな歯切れの良さから涼感を感じ、水無月が本来持っている意味そのものを感じることができます。
皆さんも、涼感のある水無月を召し上がって暑気払いをして、まずは暑い夏を無事にお過ごしくださいね。
菓銘水無月
店名亀屋友永
住所京都市中京区新町通丸太町下ル大炊町192
電話(075)231-0282
2017
75

遠囃子

この時期がやってまいりました。
文月となり、京都市の中心部では祇園祭を至る所で感じるようになってきました。
駅のホームや商業施設には、祇園祭の文字が躍り、祇園囃子が繰り返し流されています。
そして、山鉾の各会所には、提灯や御幣が飾られ、日が暮れると本番に向けて祇園囃子の練習が行われます。

街に響き渡る様々なお囃子を聴きながら過ごす日々。
今年も存分に祇園祭を楽しもうと月刊京都7月号を見て祇園祭へ思いを巡らせています。
今年の祇園祭は、カレンダーの巡り合わせがよく、前祭の宵宵々山が金曜日となり、日曜日に宵山、そして、
『海の日』の祝日が山鉾巡行にあたります。

天候次第では、過去最高の人出となるかもしれません。
祇園祭に行かれる方は、そのあたりを考慮して無理のない計画を立ててお楽しみください。
祇園祭にちなんだお菓子をお菓子屋さんで見かけるようになるのは、例年、山・鉾建てが始まる7月10日頃
からです。
お菓子で祇園祭を感じることができるようになるのもこの時期の楽しみの一つです。
祇園祭好きの気の早い私が今回ご紹介させていただくお菓子は、もちろん祇園祭にちなんだお菓子です。

八坂神社のご神紋である左三巴と木瓜紋(もっこうもん)。
その一つ『左三巴』を外郎生地にすり込み、赤こしあんを包んだお菓子です。
召し上がられる方々が想像を働かせて思い思いの祇園祭を感じていただく為に外郎生地には、あえて色をつけずに
神々しい雰囲気に仕上げられています。
手のひらにのせて、お菓子に心を寄せて見つめていると、『コンチキチン』と鉾の上で賑やかに奏でられた祇園囃子
が聞こえてるから不思議です。
みなさんは、こちらのお菓子からどのような情景を思い描かれるのでしょうか。
菓銘遠囃子
店名長久堂
住所京都市北区上賀茂畔勝町97-3
電話(075)712-4405
2017
717

祇園ばやし

「コンッ、コンッ、コンッ。」と槌音が四条烏丸界隈に響き渡ります。
作事方(さくじがた)や建方(たてかた)と呼ばれる人々によって鉾の部材を組む『鉾建て』が始まりました。
釘を一本も使わずに荒縄を巻いて部材を固定していく『縄がらみ』と呼ばれる伝統的な技法が見所です。

そして、本日7月12日は、一部の鉾で曳き初めが行われ、夜には祇園囃子の鳴り響く中、駒形提灯に灯りが灯された
鉾への一般搭乗が始まります。
祇園祭ムードが一気に高まる四条烏丸界隈です。

京都を代表する、いえ、日本を代表する祇園祭。
京都の街全体が祇園祭一色になっていると思われている方も多いのではないでしょうか。
しかしながら、実際には四条烏丸界隈から祇園・八坂神社一帯にかけて盛り上がっているだけでその周辺は意外にも
冷静。
普段とあまり変わりありません。
長年、京都に在住している方の中には、山鉾巡行はもとより、鉾を見たことが無い方もいらっしゃいます。

「こんな暑い時期に人混みなんてよう行かんわ。」というご意見。
確かにごもっともですが、まぁ、何と勿体無い。

そういう方に出会った時には、祇園祭りの素晴らしさを熱く語り、祇園祭へ誘う私です。
ちょっと、ありがた迷惑かもしれませんね。
和菓子屋の店頭に並ぶお菓子も四条烏丸界隈では、祇園祭りの意匠のお菓子を買い求める方が多い為、多くの種類を
見かけます。

一方、周辺地域のお店では、祇園祭の意匠のお菓子を作っても売れない事を理由に今まであまり多くの祇園祭りの
意匠のお菓子を見かけることがありませんでした。
しかし、近年では、京都や祇園祭に関心を寄せている方が増加している影響でしょうか、祇園祭のお菓子についての
お問い合わせが増えているそうです。

今回は、数年前に考えて作りはじめられた祇園祭の意匠のお菓子をご紹介させていただきます。
駒形提灯の焼印を一つ使い、お饅頭に何度か押して仕上げていくお菓子です。
焼印の入れ加減でまったく異なる雰囲気のお饅頭に変わるそうです。

こちらのお菓子を見ていると、夜の帳を彩る駒形提灯の灯りの中、鳴り響く祇園囃子が聞こえてきます。
そして、そこに引き寄せられてきた大勢の人並みまでが目に浮かんできます。
今年も暑い京都となりそうです。
そういった暑さの中で行われる方が祇園祭らしいのかもしれませんね。
菓銘祇園ばやし
店名日栄軒
住所京都市北区小山初音町61
電話(075)491-2204
2017
719

無言参り

鉾の曳き初め、山鉾町のそぞろ歩き、宵山、八坂神社の献茶祭などで京都の夏を感じ、迎えた祇園祭・前祭の山鉾
巡行、そして神幸祭。
今年は多くの見物客が見守る中で行われました。

祇園囃子の音色が、まだ私の頭の中で心地よく繰り返し鳴り響いています。
山鉾巡行で山や鉾が通るたびに手を合わせるおばあちゃん。
その姿に心を打たれ、本来のお祭りのあり方を教えていただいたように思います。

祇園祭が行われているこの時期、多くの習わしがあり、今なお大切に守り継がれています。

祇園の花街に伝わる『無言参り』もその一つ。
舞妓さんが願い事を叶えてもらうために行う風習です。
祇園社から神幸祭を終えて7月24日まで神輿が鎮座している御旅所に道中誰とも言葉を交わさずに7往復して願掛け
詣をするというものです。
その習わしが菓銘になったお菓子を今回はご紹介します。

外郎で舞妓さんのお袖を表現したお菓子。
舞妓さんのイメージが出るように水色とピンクのぼかしではんなりとした色合いに仕上げられています。
色合いはもちろんのこと、『無言参り』を題材にする感性は女性職人さんならではです。
誰とも言葉を交わさずにこちらのお菓子を召し上がって願掛けをしてみてはいかがでしょうか。

ひょっとすると願いが叶うかもしれませんね。
菓銘無言参り
店名長久堂
住所京都市北区上賀茂畔勝町97-3
電話(075)712-4405
2017
726

常夏

厚い雲におおわれた京都市内。
祇園祭後祭の山鉾巡行のスタート地点である烏丸御池界隈は、まるで蝉が歓声を上げているかのように蝉時雨に包ま
れていました。
そんな中、始まった山鉾巡行。
心地よい祇園囃子と蝉時雨、夏の京都には欠かせない音色です。

山鉾巡行、還幸祭を終え祇園の神様が八坂神社にお戻りになられた町は、普段の変わらぬ京都の雰囲気へと戻りま
した。

鉾に気を取られ、つい見上げてばかりいた数日間。
気がつけば道端に可憐に咲いている撫子の花。

撫子の由来は、あまりの可愛らしさから思わず撫でたくなるからその名が付いたそうです。
そんな可愛らしい撫子ですが、平成二年より京都府の草花に指定されているほど府民にとっては身近な草花。

その身近な草花は、もちろん京都の和菓子屋さんでも身近な存在です。
この時期になると『なでしこ』、『石竹』、『常夏』などの銘が付いた撫子にちなんだお菓子が店頭に並びます。
どちらのお菓子も、撫子の可憐さをうまく表現したものばかりです。

その中の一つが今回ご紹介させていただくお菓子です。
白小豆のこし餡を外郎で包んだこちらのお菓子は、京都の夏の暑さを忘れさせてくれそうな爽やかな色合い。

和菓子の優しさを感じるとともに、可憐さをとても感じる意匠。
手のひらにのせていつまでも愛でていたいお菓子です。
菓銘常夏
店名游月
住所京都市左京区山端壱町田町8-31
電話(075)711-1110

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きょうのお菓子

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